選びなおす力──ミスを引きずらない競技者のためのリカバリー思考

試合中の“あの瞬間”に、心は揺れる
ミスをした瞬間、頭が真っ白になる。 周りの音が遠くなって、自分だけが取り残されたような感覚。 「なんであんなことを…」 「もう取り返せないかもしれない…」 そんな思考が、次のプレーを曇らせていく。
競技者なら、誰もが経験する“あの瞬間”。 技術や体力ではどうにもならない、心の揺れ。 その揺れにどう向き合うかが、競技者としての本当の力を決める。
リカバリー力の本質は“選びなおす力”にある
ミスをした直後、脳は過去の記憶や感情に引きずられやすい。 これは脳の扁桃体が関与する“防衛反応”であり、瞬時にネガティブな感情を引き起こす。
この状態では、前頭前野(判断や思考を司る領域)の働きが低下し、冷静な判断ができなくなる。 “選びなおす”という行為は、前頭前野を再起動させ、感情の支配から抜け出すスイッチとなる。
つまり、リカバリー力とは「過去に囚われず、今この瞬間に戻る力」。 そしてその力は、“選びなおす”という習慣によって育まれる。
なぜ“選びなおす力”が必要なのか?
1. 感情の自動反応から抜け出すため
脳はミスを「危険」と判断し、過去の失敗記憶を呼び起こす。 この反応は無意識に起こるため、気づかないうちにプレーの質が落ちていく。
“選びなおす”ことで、感情に気づき、距離を取ることができる。 これは心理学的に“メタ認知”と呼ばれ、競技者の自己調整力を高める。
2. 本番での柔軟性を高めるため
試合では予測不能なことが起こる。 相手の戦術変更、環境の変化、審判の判定──それらに対応できるのは、状況に応じて選びなおせる選手だけだ。
心理学ではこれを「心理的柔軟性」と呼び、競技パフォーマンスとの相関が高いことが研究で示されている。
3. 自己効力感を育てるため
「自分は立て直せる」「整え直せる」という感覚は、競技者の自信の源になる。 Albert Banduraの自己効力感理論によれば、困難な状況での成功体験が、最も強い自信につながる。
“選びなおす”という習慣は、ミスの中に成功体験を生み出す回路をつくる。
“選びなおす力”を養うためにできること
1. 感情に名前をつける(ラベリング)
「悔しい」「焦っている」「不安だ」と言語化することで、感情との距離が生まれます。 これは心理学的に“ラベリング効果”と呼ばれ、感情の過剰反応を抑える効果があるとされています(Lieberman et al., 2007)。
2. 呼吸と身体感覚に意識を向ける
深呼吸、足裏の感覚、視線の切り替えなど、身体を通じて“今ここ”に戻る技術を持つ。 これはマインドフルネスの基本であり、競技者の集中力と回復力を高める(Gardner & Moore, 2012)。
3. セルフトークの再設計
「まだできる」「次がある」「この状況でもやれることはある」など、自分にかける言葉を整える。 言葉が思考を導き、思考が行動を変える。 これは認知行動療法の基本原理でもあります。
4. “選びなおす場面”を意図的に作る
練習中にあえてミスをした後の対応を意識する。 「ミスした後にどう整えるか」を練習の一部として扱うことで、本番での再現性が高まります。
5. 試合後の振り返りを言語化する
「何が起きたか」「どう受け止めたか」「次にどうするか」を記録する。 この習慣が、選びなおす力を“定着”させる土台になります。
あなたにしか見つけられない“選びなおし方”がある
ここまで紹介した方法は、あくまでも参考例です。 どれも正解ではなく、可能性のひとつ。 あなたにとっての“選びなおす力”の育て方は、あなた自身の中にしかありません。
だからこそ、スポーツメンタルコーチがいます。 あなたの競技人生に寄り添いながら、 あなたにしか見つけられない“選びなおし方”を、一緒に探していく存在として。
最後のメッセージ
──その一歩を、静かに待っています
「このままでいいのか?」 そう思った瞬間が、選びなおす力の始まりです。
私は、その問いに一緒に向き合う存在でありたい。 答えを押しつけることはしません。 あなた自身の答えが見つかるまで、隣で静かに見守りながら、必要なときにそっと問いを差し出す。
無理に変わらなくていい。 でも、もし「変わりたい」と思ったとき、 その一歩を、私は静かに待っています。
競技者としてのあなたが、もっと自由に、もっと自分らしくプレーできるように。 その土台を、一緒に整えていきましょう。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者