スポーツメンタルコーチ上杉亮平
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影で戦い続けたスイマー──佐藤久佳が教えてくれる心の揺れとの向き合い方

 

スポーツの世界には、光の当たる場所に立つ選手がいる。 そしてそのすぐ後ろで、静かに、戦い続ける選手がいる。

競泳・佐藤久佳(さとう ひさよし)。 彼の名前を聞いて、すぐに顔が浮かぶ人は多くないかもしれない。

しかし彼は、日本の競泳史に確かな足跡を残した選手。 日本人男子として初めて100m自由形で「50秒の壁」を破り、 北京五輪では4×100mメドレーリレーで銅メダルを獲得した。

それでも、彼の物語は華やかな成功よりも、 「心の揺れ」「影の葛藤」「自分との対話」に満ちている。

このコラムでは、佐藤久佳という一人のスイマーの人生を通して、 「心の揺れとどう向き合うか」 「自分の価値をどう見つけるか」 という普遍的なテーマを掘り下げていく。

 

 苫小牧で育った少年──水泳は好きではなかった

佐藤久佳は1987年、北海道・苫小牧市に生まれた。 3歳の頃、兄が通っていたことをきっかけに水泳を始める。

しかし、意外なことに、 彼は幼い頃から水泳が好きだったわけではない。

小学生の頃の彼は、 水泳よりも野球やバスケットボールの方が楽しかった。 練習に行く前、家の庭でボールを投げたり、 塀に向かってピッチングをしたり、 一人で遊ぶ時間の方が心が躍ったという。

水泳は「やらされている練習」。 コーチに言われたメニューを淡々とこなすだけの毎日。

それでも彼は辞めなかった。 辞めずに続けた理由は、 「好きだから」ではなく、 「続けてきたから」という、 どこか不器用で、しかし誠実な理由だった。

この続ける力こそが、 後に彼を日本のトップスイマーへと押し上げる。

 

 中学・高校時代──自分は特別ではないという感覚

中学時代、彼は決して全国トップではなかった。 才能が突出していたわけでもない。 周囲から「天才」と呼ばれるタイプでもなかった。

高校は日大豊山高校へ進学。 ここでも、彼はスター選手ではなかった。

 

ただ、彼には一つだけ武器があった。

「自分の泳ぎを信じることができるまで、淡々と積み重ねる力」

派手さはない。 だけど、積み重ねることをやめない。

この静かな継続が、 大学で大きな花を咲かせることになる。

 

日本人初の「50秒の壁」突破──しかし心は晴れなかった

大学進学後、彼の才能が一気に開花する。

2005年、日本学生選手権。 4×100mフリーリレーの第1泳者として、 49秒73──日本人初の「50秒の壁」突破。

さらに2日後、100m自由形決勝で49秒71。 日本の自由形短距離に、新しい歴史が刻まれた。

しかし、ここで彼の心は大きく揺れる。

なぜなら、同じ時代に 北島康介という絶対王者がいたからだ。

北島は世界の頂点に立ち、 日本中が彼に注目していた。

一方、佐藤久佳は自由形の選手。 日本では自由形短距離は注目されにくく、 北島のようなスター性もない。

「自分は何者なのか」 「自分の価値はどこにあるのか」

記録を出しても、心の中に静かな空洞が残った。

 

 孤独な努力──誰も見ていない場所で積み重ねる日々

2007年、日本学生選手権。 彼は100m自由形で48秒91を記録し、 アジア人として初めて48秒台に突入する。

しかし、彼の心は常に揺れていた。

 

  1. 自分はスターではない

 

  1. 自分は北島のように注目されない

 

  1. 自分は影の存在なのか

 

そんな思いが、静かに胸の奥に積もっていく。

それでも彼は、練習をやめなかった。 誰も見ていない場所で、淡々と積み重ね続けた。

彼の座右の銘は「獅子奮迅」。 派手な言葉だが、彼の生き方は真逆だ。

淡々と、積み重ねる。

その姿勢こそが、彼の強さだった。

 

北京五輪──影のスイマーが世界の舞台で輝いた瞬間

2008年、北京オリンピック。 彼は4×100mメドレーリレーの自由形を任される。

日本は銅メダルを獲得。 彼は世界の舞台で、確かな存在感を示した。

しかし、ここでも彼の心は複雑だった。

メダルを獲った。 世界の舞台に立った。 日本の歴史に名を刻んだ。

それでも、 「自分は何者なのか」 という問いは消えなかった。

 

引退──自分の価値を見つけるまでの長い旅

2014年、彼は現役を引退する。

引退後、彼はJSBスイミングスクールを設立し、 子どもたちに水泳を教える道へ進む。

そこで彼は、ようやく気づく。

「自分は、誰かと比べる必要なんてなかった」

北島康介の影で苦しんだ日々。 自分の価値を見失いかけた時間。 孤独な努力。 静かな葛藤。

そのすべてが、 自分の言葉で子どもたちに伝えられる財産になっていた。

彼は言う。

「ライバルは、練習嫌いな自分」

他人ではない。 比べる相手は、いつも自分自身だった。

 

 佐藤久佳が教えてくれる心の揺れとの向き合い方

彼の人生は、派手ではない。 ドラマチックでもない。

だけど「心の揺れとどう向き合うか」 というテーマにおいて、 これほど深い物語を持つ選手は多くない。

彼が教えてくれるのは、こんなことだ。

 

心の揺れは、弱さではない

揺れるからこそ、人は成長できる。

 

自分の価値は、他人が決めるものではない

北島康介の影にいたとしても、 彼の価値は揺るがなかった。

 

積み重ねは、必ず自分を裏切らない

派手な才能より、静かな継続。

 

 自分の物語は、自分で意味づけられる

引退後、彼は自分の人生の意味を見つけた。

 

最後に──影のレジェンドの物語は、私たちの物語でもある

佐藤久佳の人生は、 「光の当たる場所にいなかった人間の物語」ではない。

むしろ、 「光の当たらない場所で戦い続けた人間の物語」。

そしてその物語は、 私たちの人生にも重なる。

 

  1. 誰かと比べて落ち込む

 

  1. 自分の価値がわからなくなる

 

  1. 努力が報われないと感じる

 

  1. 心が揺れる

 

そんな瞬間は、誰にでもある。

だからこそ、 佐藤久佳という影のレジェンドの物語は、深く心に響く。

「自分は何者なのか」

その問いに向き合い続けた彼の姿は、 今を生きる私たちに、 大切なヒントを与えてくれる。

競技人生だけが全てではない、競技を終えた時に気づけることもある。

だからこそ「今」を精一杯生きて欲しい。

 

最後までお読み頂きありがとうございました。

 

コラム著者
プロスポーツメンタルコーチ上杉亮平
全てのアスリートが競技を楽しみ、自分らしさを輝かせる世界を創る。ことを目指し
「メンタルで視点(せかい)が変わる」この言葉胸にアスリートを自己実現へと導くサポートをしています。詳しくはこちら

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