競技者がケガと向き合うとき心の中で起きていること

ケガが心に残す影と、そこから立ち上がるためのメンタルの在り方
スポーツの世界において「ケガ」は避けられない出来事です。
頭では理解していても、実際にその瞬間が訪れると、心の中で起きる揺れは想像以上に大きく、深く、そして静かに広がっていきます。
ケガは身体だけを傷つけるわけではありません。 むしろ、選手にとって本当に厄介なのは、心の奥に生まれる“影”のほうだといえます。
ここでは、ケガがメンタルに与える主な影響を丁寧にほどきながら、そこから立ち上がるための心の在り方について考えていきます。
ショックと喪失感──「あの日の自分」が遠ざかる瞬間
ケガをした直後、多くの選手がまず感じるのは“ショック”です。
「なんで今なんだろう」 「もう戦えないのではないか」 「積み上げてきた努力が無駄になったのでは」
冷静でいようとしても、心は追いつきません。
これまでの自分の時間、積み重ねてきた日々、未来のビジョン──それらが一瞬で遠ざかっていくような感覚に襲われる。
しかし、このショックや喪失感は決して弱さではありません。
むしろ、「自分の競技人生を大切にしてきた証」です。
大切にしてきたものを失いかけたとき、人は必ず揺れます。
その揺れは自然で、健全ですらあります。 喪失感は、心が“本気で向き合ってきた証拠”なのです。
不安と恐れ──未来が見えなくなるとき人は立ち止まる
ケガのショックが落ち着くと、次に押し寄せてくるのが“不安”です。
「再び怪我するのではないか」 「以前のようにプレーできるだろうか」 「チームに戻れるのか」 「自分の居場所は残っているのか」
未来が見えないとき、人は必ず不安になります。
これは脳の仕組みとして自然な反応です。
脳は“予測できない状態”を最も嫌う。
だからこそ、ケガという予測不能な出来事は、心に強いストレスを与えるんです。
しかし、この不安にはもうひとつの側面があります。
それは、「自分が本当に大切にしているものが何か」を浮き彫りにする力です。
不安は、心が守りたいものを教えてくれます。
だからこそ、不安を感じる自分を責める必要はありません。
孤独感・停滞感──取り残されるような感覚との戦い
リハビリ期間に入ると、多くの選手が“孤独”を感じます。
周囲は練習し、試合に出て、成長していきます。
自分だけが止まっているように見えるのです。
「自分だけが取り残されている」 「みんなは前に進んでいるのに」
この感覚は、競技者にとって非常に苦しいものです。
しかし、ここで知っておいてほしいことがあります。
リハビリ期間は“止まっている時間”ではなく、“未来のために蓄えている時間”です。
表面上は動けなくても、
身体は回復し、心は揺れながらも強くなって、競技観は深まり、自分と向き合う力が磨かれる。
この期間にしか得られない成長が確かに存在する。
孤独は、成長の前触れです。
自己評価の低下──「居場所がなくなるのでは」という恐れ
ケガをすると、多くの選手が自分の価値を見失いかけます。
「チームに必要とされなくなるのでは」 「自分の役割はもうないのでは」 「戻っても以前のように活躍できないのでは」
この恐れは、競技者としてのアイデンティティを揺さぶります。
しかし、ここで大切なのは、 “競技力=自分の価値”ではない という視点です。
競技者としての価値は、
- 努力し続ける姿勢
- 仲間を支える力
- 競技に向き合う誠実さ
- 困難に立ち向かう覚悟
こうした“目に見えない部分”にも宿っています。
ケガは、その価値を見失わせます。
しかし同時に、本当の自分の価値を再発見するチャンスでもあります。
ケガを乗り越えるためのメンタルの在り方
「感情を否定しない」
──揺れる心は、揺れていい
ショック、不安、孤独、焦り。
これらはすべて自然な反応です。
大切なのは、 「感じてはいけない」と思わないことです。
感情は押し込めるほど強くなっていきます。 まずは、揺れる自分をそのまま受け止めることから。
「今できること」に意識を向ける
ケガをしたとき、できないことばかりが目につきます。
しかし、どんな状況でも“今できること”は必ずあります。
- 身体の使い方を学び直す
- 競技観を深める
小さな積み重ねが、未来の大きな力になります。
「比較ではなく、回復のプロセスに集中する」
他人と比べるほど、心は苦しくなる。
ケガの回復は人それぞれで、同じ怪我でも治り方は違います。
大切なのは、 「昨日の自分より、少し前に進んだか」 という視点です。
1ミリでも前に進んでいれば、それは確かな成長です。
「支えてくれる人を信じる」
ケガをすると、人は自分の殻に閉じこもりやすくなります。
しかし、リハビリは一人で戦うものではありません。
トレーナー、コーチ、仲間、家族。 彼らはあなたの回復を本気で願っています。
孤独を感じたときこそ、 「支えてくれる人の存在」を思い出してほしいのです。
「ケガを“物語の一部”として捉える」
ケガは、競技人生の“終わり”ではありません。
むしろ、物語を深くする“章”のひとつです。
ケガは、あなたの物語を豊かにするための一つのステージです。
最後のメッセージ
ケガはあなたを弱くしません。むしろ強くします。
ケガは確かに辛い出来事です。
心を揺らし、未来を曇らせ、孤独を感じさせる。
しかし、ケガはあなたを弱くする出来事ではありません。
むしろ、 「本当の強さを育てる時間」 です。
ケガをした選手は
- 自分と向き合う力
- 困難を乗り越える力
- 競技への覚悟
- 仲間への感謝
- 自分の価値を再発見する力
これらを手に入れて戻ってきます。
ケガは、あなたの物語を深くし、 そして、あなたの未来を強くします。
もしよければ、宮市亮選手の歩みから“心のしなやかさ”を学ぶコラムも読んでみてください。
何度もケガと向き合いながら、それでも前に進み続けた姿勢には、競技者として大切にしたいヒントがたくさん詰まっています。
→ 宮市亮に学ぶ“心のしなやかさ”──ケガと向き合う力
あなたの今の状況にも、きっと響くものがあると思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者