怒る指導に耐え続けないで──選手の心を守る時代が来ている

このコラムを書こうと思った理由
最近、選手からや親御さんからの相談が増えている。 「監督の言葉が怖い」「怒鳴られると頭が真っ白になる」「自分が悪いのかもしれない」──そんな声が、静かに、でも確かに届いている。
指導者の言葉が、選手の心を傷つけている。 それは、指導者が悪いという話ではない。 時代が変わったのに、指導のスタイルが変わっていないだけかもしれない。
このコラムは、そんな選手たちに向けて、
そして、指導者には「今、何が求められているのか」をそっと伝えたい。
怒る指導がもたらす脳と心への影響
闘争・逃走反応
怒られると脳の扁桃体が過剰に反応し、身体は「危険」と判断。
→ 思考力・創造性が抑えられ、学びの質が低下する。
ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌
怒られる環境が続くと、慢性的にコルチゾールが分泌される。
→ 記憶力・集中力が落ち、心身のバランスが崩れる。
前頭前野の活動低下
怒りの感情が強い場面では、理性・判断・自己制御を担う前頭前野の働きが弱まる。
冷静な判断や自己調整が困難になる。
「自分はダメだ」という思い込み
怒られることで、自己否定感が強まりやすくなる。
自信を失い、挑戦する力が萎えてしまう。
怒る指導の教育的リスク
恐怖による行動変化
怒られたくないから動くようになり→ 本質的な理解や自発的な成長につながらない。
自己肯定感の低下
感情的な叱責は「自分は価値がない」と感じさせる。
→ 挑戦意欲や粘り強さが奪われる。
信頼関係の崩壊
怒りによる支配は一時的な効果しかなく→ 長期的には指導者の言葉が届かなくなる。
これらは、選手の可能性を閉ざす要因になる。 だからこそ、怒る指導は「時代遅れ」と言われるようになった。
褒める指導が注目される理由
──優しさではなく戦略
褒める指導は、単なる“甘やかし”ではない。 むしろ、選手の可能性を引き出すための、戦略的な関わり方だ。
- 褒められると、脳内でドーパミンが分泌され、報酬系が活性化する。
→「もっと頑張ろう」という意欲が自然に湧く。
- 自己効力感(自分はできるという感覚)が育ち、挑戦する力が湧いてくる。
ハラスメント対策の流れの中で、「安全な関係性」の中で力を引き出す方法として再評価されている。
科学的に効果的な褒め方には、以下の鉄則がある:
- 本心からの言葉であること(誠実さが伝わらないと逆効果)
- 努力や工夫など“自分でコントロールできる行動”を褒める
- 他人と比較しない(過去の自分との比較が成長実感につながる)
- 自律性を損なわない(報酬ではなく、内発的動機を育てる)
- 達成可能な期待を伝える(「できるかも」と思える基準が挑戦を促す)
選手へ伝えたいこと
──耐え続ける必要はない
もし今、怒られることで苦しんでいるなら── それは、あなたが弱いからではない。 怒る指導が、あなたの可能性を閉ざしてしまっているだけかもしれない。
だから、抱え込まないでほしい。 信頼できる人に、相談してほしい。 「こんなこと言っていいのかな」と思うことほど、言葉にしていい。
あなたの心を守ることは、あなたの競技人生を守ることでもある。 そして、あなたの声が、チームの空気を変える力になる。
チームとは何か
──関係性の再定義
監督は、「選手あってのチーム」だと認識すべきだ。 「俺が偉い」「俺がチームを作っている」という勘違いは、もう通用しない。 選手がいてくれるからこそ、チームは存在する。
一方で、選手も「監督やコーチがいてくれるからこそ、自分は成長できる」と認識してほしい。 指導してくれることに、感謝と敬意を持つこと。 その相互の意識があるとき、チームは「信頼と成長の場」になる。
怒る指導は、関係性を断ち切る。 褒める指導は、関係性を育てる。 でも本当に大切なのは、「問いを持ち合える関係性」だ。
指導者へ伝えたいこと
──時代は変わっている
怒る指導が「本気の証」だった時代は、もう終わりつつある。 今は、問いと余白を持てる関係性が、選手の可能性を育てる時代。
選手は、ただ技術を教わる存在ではない。 心を育て、問いを持ち、仲間とともに成長する存在だ。
指導者は、ただ教える人ではない。 選手の問いに寄り添い、余白を守る人でもある。
その関係性があるとき、チームは強くなる。 そして、選手は自分の可能性を信じられるようになる。
声をあげることは、弱さではなく強さ
怒る指導に耐え続ける必要はない。 褒める指導に甘えすぎる必要もない。 大切なのは、あなたが「自分らしくいられる場所」を持つこと。
そのために、声をあげていい。 そのために、相談していい。 そのために、あなたの心を守っていい。
このコラムが、誰かの「言ってもいいんだ」というきっかけになりますように。 そして、指導者にも「今、何が必要とされているのか」が届きますように。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者