願ったわけでも、目標にしたわけでもない。 ただ、どこかで「そうなっている」と思い込んでいたことが、気づけば現実になっていた。 それは“願望”ではなく、“確信”だったのかもしれません。
東京に住んでいる“はず”だった20歳の自分
20歳の頃、私は神戸に住んでいました。 特に理由があったわけではないけれど、どこかで「将来、自分は東京に住んでいる」と思い込んでいたんです。 それは夢でも目標でもなく、すでに決まっていることのような感覚でした。
そして6年後、26歳のとき。 当時勤めていた会社で、本社への転勤という形で東京に来ることになりました。 自分が思い込んでいた“未来の姿”が、何の努力も意識もなく、現実になっていたのです。
滝川第二高校への進学
──「それ以外考えられない」
もっとさかのぼると、プロサッカー選手を目指していた高校進学の頃。 学力は足りず、選べる高校は限られていました。 でも私は、まったく焦っていませんでした。なぜなら──
「サッカーで滝川第二高校に入る。いや、もう入っている。それ以外考えられない。」
そう思い込んでいたからです。 進学希望表も一択。先生に心配されて三者面談まで開かれ、「他も考えた方がいい」と言われても、頑なに拒否しました。 根拠のない自信だけがありました。そして、結果的にその高校に入学していたのです。
今思うと、逆に高校卒業前にはプロを目指していたのにも関わらず将来自分がプロのチームに入っている自分を考えられなかった。だからなれずに諦めてしまったのかもしれません。
スポーツメンタルコーチという“未来の自分”
そして今。 スポーツメンタルコーチという仕事の存在を知ったとき、私はどこかで「自分はこの仕事をしている」と感じていました。 まだ何も始まっていないのに、すでにその道を歩いているような感覚。 そして今、実際にその仕事をしています。
元サッカー日本代表小野伸二の「清商に行きます。覚えといてください」
──小学4年生の“宣言”が未来を動かす
この“思い込みの力”は、私だけのものではありません。 たとえば、元日本代表の小野伸二さん。 彼が静岡の名門・清水商業高校に進学した背景には、小学4年生のときのある出来事があります。
当時、清商が沼津市で試合を行った際、地元の指導者であり、もう一人の“小野さん”と呼ばれる人物が、伸二少年にこう言ったのです。 「清商の先生に『清商に行きます。』って言ってこい」
小学4年生の小野伸二少年は、その言葉をうのみにし、『清商に行きます。覚えておいてください。』そう宣言したそうです。
それは本人の強い意志というよりも、周囲の大人の導きによる“宣言”でした。 けれども、その言葉は彼の中に静かに根を張り、中学2年生の頃には、もう清商に進学することを決めて疑っていなかったといいます。
そして実際にその通りに進学し、そこから日本代表へと駆け上がっていきました。
このエピソードは、「思い込みの力」が本人の意志だけでなく、誰かの確信や言葉によっても芽生え、育まれていくことを示しているように思います。 そして、幼い頃に口にした“未来の言葉”が、現実を静かに動かしていくこともあるのです。
トップアスリートが持つ“根拠のない確信”
多くのトップアスリートが、似たような“根拠のない確信”を持っています。
- 「自分はプロになっている」
- 「この大会で優勝している」
- 「世界で戦っている自分が見えている」
それは、ただの願望ではありません。 “もうそうなっている”という確信。 そしてその確信が、日々の行動や選択を無意識に導いていくのです。
誰の中にもある“思い込みの力”
これは特別な人だけの話ではありません。 実は、どんな人にも「根拠はないけど、なぜかそうなる気がする」という経験があるはずです。
それは、未来の自分からの“ささやき”かもしれません。 そしてその声に耳を傾け、信じ切ることができたとき── 現実は、静かにその方向へと動き始めるのです。
思い込みが導く“もう一つの現実”
ただし、思い込みの力はポジティブな方向だけに働くわけではありません。 無意識のうちに、自分を狭めてしまうこともある。
- 「どうせうまくいかない」
- 「自分には無理だ」
- 「失敗するに決まっている」
そんな“決めつけ”もまた、現実を静かに形づくってしまうのです。 たとえば、「自分は人前で話すのが苦手だ」と思い込んでいる人は、話す機会を避け、経験を積むこともなく、結果的に「やっぱり苦手だ」という現実を強化してしまう。
思い込みの力は、ポジティブにもネガティブにも働く。 だからこそ、自分がどんな“確信”を持っているのかに、静かに目を向けてみることが大切なのかもしれません。
「決める」ことが、現実を動かす
「こうなりたい」ではなく、「そうなる」と決める。 そして、「もうそうなっている」と信じ切る。 この“思い込みの力”は、単なるポジティブシンキングではありません。 それは、脳と心を未来に向かって整える習慣です。
心理学的にも、自己効力感(self-efficacy)や予測的自己(self-fulfilling prophecy)といった概念があり、 人は「自分はできる」と思うことで、実際にその能力を引き出すことができるとされています。
最後に
──その確信が、あなたの物語を動かす
こうして振り返ってみると、人生の節目にはいつも“根拠のない確信”がありました。 それは、誰かに説明できるものではなく、ただ自分の中に静かに灯っていたもの。 そしてその灯りが、道を照らしてくれていたのだと思います。
もし今、あなたの中に「なぜかそうなる気がする」という感覚があるなら── それはもう、始まっているのかもしれません。 根拠はいらない。ただ、決めるだけでいい。 「もうそうなっている」と。
そしてその“なっている”が、自分にとって望ましいものであるように、 日々の言葉や選択を、静かに整えていきたい。
その確信が、あなたの人生を動かす力になる。 そして、気づけばその景色の中に、あなたは立っているはずです。
物語の続きを描くのは、あなた自身です。 どんな未来を“もうそうなっている”と信じるのか。 その問いが、今日の選択を、そして明日の現実を、静かに形づくっていくのです。