スポーツメンタルコーチ上杉亮平
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不安の質が変わるとき──競技者の“次のステージ”に気づく瞬間

 

競技者の“不安”は、実は成長の兆し──本稿では、メンタルの構造変化とその気づきのプロセスを丁寧に紐解きます。

 

不安という言葉の奥にあるもの

競技者との対話の中で、「不安です」という言葉が出てくることがある。 その言葉に出会ったとき、私はすぐに“解決”に向かうのではなく、ただ丁寧に話を聞くようにしている。 どんな場面でその不安を感じたのか。 そのとき、どんなことを考えていたのか。 言葉にならない感覚も含めて、静かに寄り添いながら、少しずつ輪郭を探っていく。 ある選手との対話の中で、興味深い気づきがあった。 話を深めていくうちに、その不安が「今の目標」に対するものではなく、その目標を達成した後のことに向けられていることが見えてきたんです。本人はそのことに気づいていない。 不安の正体が、すでに「次のステージ」に向けたものだということに。 この瞬間に立ち会ったとき、私は静かな驚きとともに、ある確信を得た。 人は、気づかないうちにステージを上げていることがある。 そしてその兆候は、しばしば「不安」という形で現れる。 

 

不安は、成長の証である

不安は、一般的にはネガティブな感情として捉えられる。 だが、競技者の文脈においては、それが成長の証であることが少なくない。 なぜなら、不安は「未知」に対する反応だからだ。 そして「未知」とは、今までの自分では扱えなかった領域であり、新しい挑戦の予兆でもある。 この選手の場合、かつては「目標を達成できるかどうか」に不安を感じていた。 だが今は、「達成した後どうなるか」に不安を感じている。 この違いは決定的だ。 前者は「結果への不安」であり、後者は「役割への不安」である。 つまり、自分がその結果にふさわしい存在になろうとしている証拠なんです。 不安の質が変わるとき、人はすでに別人になっている。 それは、技術や成績の変化ではなく、メンタルの構造が変化した瞬間である。

 

 メンタルの構造変化

──「結果にふさわしい自分」への移行

選手の成長には、技術的な進化だけでなく、内面の構造変化が伴う。 この変化は、段階的に進行するが、本人がその変化に気づくことは少ない。

 

  1. 最初の段階では、「目標を達成できるかどうか」が不安の中心にある。

このとき、選手はまだ結果に対して受動的であり、自己評価も外的な基準に依存している。

 

  1. 次の段階では、「達成した後にどうするか」という不安が現れる。

ここでは、競技者が自分の役割を自覚し始め、結果にふさわしい自分であろうとする意志が芽生えている。 不安は、もはや“できるかどうか”ではなく、“どう在るか”に向かっている。

 

  1. さらに進むと、競技者は結果そのものを超えて、自分が何を生み出す存在であるかを考え始める。

この段階では、不安は「価値の創出」に関するものであり、自己の存在意義に関わる問いへと変化している。 このように、不安の質が変わることは、内面の構造が変化している証であり、 それは競技者が次のステージに足を踏み入れていることを示している。

 

 気づきを促す問い

──「今話していることって、目標達成した後の話だよね?」

この選手との対話の中で、私が投げかけた問いはシンプルだった。 「今話していることって、目標達成した後の話だよね?」 この問いは、選手自身が自分の成長に気づくための鏡となった。 不安の正体が、すでに「次のステージ」に向けたものだと知ったとき、 選手の表情が変わった。 それは、自分がすでに目標を達成できる存在になっていることへの実感だった。 この気づきは、単なる安心感ではない。 それは、自分のステージが上がったことへの静かな誇りであり、 次の挑戦に向けた準備の始まりでもある。 

 

成長の場に立ち会うというし合わせ

こうした瞬間に立ち会えることに、私は深いし合わせを感じる。 それは、選手の成績や結果を見届けること以上に、その人の内面が変化していくプロセスに寄り添えることへの感謝だ。 不安という言葉の奥に、すでに次のステージを見据えている自分がいる。 そのことに気づいた瞬間、選手の表情が変わる。 それは、安心でも驚きでもなく、静かな納得に近い。 「自分は、もうこの目標を越えようとしているのかもしれない」 そんな実感が、次の一歩を踏み出す力になる。 選手が、自分でも気づかないうちに変化し、 その変化を言葉にすることで、さらに一歩を踏み出していく。 そのプロセスに伴走できることは、何よりの喜びである。 そしてこの経験は、選手だけでなく、私自身にも問いを返してくる。

 

自分は今、どんな不安を抱えているだろうか?

その不安は、もしかすると、次のステージへの予兆なのかもしれない。 そう思えるだけで、日々の選択が少しだけ前向きになる。

 

 まとめ:不安は、問いの入口である

不安は、避けるべき感情ではない。 それは、成長の入口であり、問いの始まりである。

 

  1. 「何に対して不安を感じているのか?」

 

  1. 「その不安は、どんな自分を前提にしているのか?」

 

  1. 「その前提は、すでに自分が変化している証ではないか?」

 

こうした問いを通じて、人は自分のステージが上がっていることに気づく。 そしてその気づきが、次の挑戦への確かな一歩となる。 気づかないうちに、ステージが上がっている瞬間がくる。 その瞬間に立ち会えること。 それこそが、選手とともに歩む者の、何よりのし合わせなのだと思う。

 

不安の本質については、以前のコラム「人はなぜ不安を感じるのか?──スポーツメンタルから見る心理メカニズム」でも詳しく触れています。合わせて読むことで、不安という感情の奥行きがより立体的に見えてくるかもしれません。

是非読んでみて下さい。

最後までお読み頂きありがとうございました。

 

コラム著者
プロスポーツメンタルコーチ上杉亮平
全てのアスリートが競技を楽しみ、自分らしさを輝かせる世界を創る。ことを目指し
「メンタルで視点(せかい)が変わる」この言葉胸にアスリートを自己実現へと導くサポートをしています。詳しくはこちら

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