自己理解が習慣をつくる

「変わりたい」「続けたい」「整えたい」──そんな気持ちは、多くの方が抱えています。 けれど、多くの場合は“最初の一歩”をどう踏み出せばいいかで立ち止まってしまいます。
目標を叶えるためには、意志の力だけでは足りません。 大切なのは、自分自身の性質や習慣を理解して、“しっくりくる設計”を見つけること──つまり、「自己理解」です。
私はスポーツメンタルコーチとして活動する中で、日々の実感としてこの重要性を感じています。 自己理解は、習慣や感情だけでなく、人間関係や人生の選び方にまで静かに影響してくれる、心の土台だと思っています。
「気になってしまう」という習性を、力に変える
私には、ある習性があります。 それは──「気になったことを放っておくと、眠れなくなる」という性質です。
選手の何気ない言葉や、事例の違和感が頭に残ってしまう。 価値観がぶつかった瞬間や、解決しきれなかった問いが心に引っかかる。 そういったことがあると、どんなに疲れていても、頭が勝手に動き出すのです。
昔はこの習性に困っていました。けれどある時、こう思いました。
「この反応こそ、自分の思考を動かすエネルギーなのでは?」
そう考えたとき、自己理解のスイッチがひとつ入りました。 それは、思考や習慣を“設計する力”に変わったのです。
小さな一歩のデザイン──「気になりそうなことを考える」
私が毎日継続しているのは、実はひとつだけです。 「気になりそうなことを考える」──これだけです。
この一歩さえ踏み出せば、あとは習性が“勝手に流れをつくってくれる”のです。
気になってしまえば、眠れなくなる。 眠るためには、調べる・深掘る・言語化する。 それが整えば、自然とコラムとしてまとまっていく。 結果的に、ホームページで毎日更新する流れが生まれます。
この継続は、決して気合や根性ではありません。 自分の性質が自然に動くような「感覚の設計」があるからこそ、続けられているのです。
だから私が守っているのは、“気になりそうなことを考える”という小さな入り口だけ。 それが自分らしい時間を育て、思考が動き、習慣が生まれていきます。
自己理解は、習慣化の“根っこ”を整えてくれる
行動が続くとき、そこには「しっくりくる感覚」があります。 そしてその感覚を生むのが、自己理解です。
- 思考がいつ・どんなときに動き出すのか
- 放置したらどうなるか
- どんな形で処理すると落ち着けるか
- どのタイミングなら安心できるか
こうした習性を理解していることで、行動を“自分専用”の形にデザインできます。 それは「努力して続ける」のではなく、「馴染んで続いてしまう」感覚です。 靴がぴったりだと歩きやすいように、行動もサイズが合えば自然と継続できるのです。
自己理解が深まると、感情の動きも変わってくる
もうひとつ、自己理解には大きなプラスがあります。 それは、感情との付き合い方が静かに変わっていくということです。
- 不安が湧いたとき、「なぜ不安なのか」に気づける
- 落ち込んだとき、「何が傷ついたのか」を見つけられる
- 揺れたとき、「どんな前提が影響しているのか」を振り返れる
感情を否定したり我慢するのではなく、構造として捉える力が育ってきます。 その力によって、感情の波に流されすぎず、選び直す余白が生まれます。
迷っても止まらない。 揺れても沈まない。 そんな“内側の支え”として、自己理解は静かに働いてくれるのです。
自己理解が深まると、人との関係にも変化が生まれる
さらに、自己理解は“他者との関係性”にも影響します。
自分の性質や習慣を理解していると、 必要以上に強がったり、無理に合わせたりする必要がなくなります。
「こういう感覚があるから、こう考えている」 「こういう性質だから、この選択をしている」 そんなふうに、自分の立ち位置を説明できるようになると、誠実な距離感が育まれます。
結果として──
- 言葉が届きやすくなる
- 信頼が深まりやすくなる
- 余白のある関係性が築ける
それは競技者の現場でも、表現者としての関わりでも、何度も実感してきたことです。
自己理解は、技術よりも深い支えになる
競技や表現においては、様々な技術やノウハウがあります。 けれどその前に、「自分自身を知っているかどうか」が、継続力や関係性に強く影響していると感じています。
- 書いたり話したりすることで落ち着ける人
- 空間の静けさが集中力を生む人
- 誰かとの対話が思考を深めてくれる人
それぞれに、自分だけの“行動設計”がある。 その設計図となるのが、自己理解です。
この設計図があるだけで、行動は苦しみではなく、“心地よい流れ”になってくれます。
自己理解 → 気になる一歩 → 習慣 → 自信 → 感情との和解 → 関係性の質
この連鎖は、誰にでも起こせます。 完璧でなくても、立派じゃなくてもいいのです。 大切なのは、「自分に合った小さな一歩を知っていること」。
自己理解が深まると、自分の性質に寄り添いながら、気になることをきっかけに自然と動けるようになります。 習慣が育ち、自信が宿り、人との関係にも静かな余白が生まれていく。
それは競技者としてだけでなく、人として生きていくための、確かな支えになります。
最後のメッセージ
習慣をつくることも、感情と向き合うことも、誰かとの関係を育てることも── すべては「自分を知ること」から始まります。
自己理解は、すぐに答えが出るものではありません。 けれど、問いかけ続けることで、少しずつ「自分に合った道」が見えてきます。
その道は、誰かと比べる必要のない、自分だけのペースで歩ける道です。
もし今、何かを続けたいと思っているなら。 もし今、揺れの中にいるなら。
まずは「気になっていること」に、そっと目を向けてみてください。
その小さな一歩が、あなたらしい習慣を育て、 あなたらしい時間をつくってくれるはずです。