スポーツメンタルコーチ上杉亮平
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あと一歩届かない選手へ─“たられば”に負けないメンタル戦略

 

最後の一歩が届かない。 ほんの少しの差で結果を逃す。

競技の世界にはそんな選手がたくさんいる。だからこそ、その“ギリギリ”には多くの声が寄せられる。 「あの時こうしておけば勝てたのに」 「もっと〇〇をしていれば…」

そうした“たられば”の世界は、本人の努力をなぞりつつも、否応なく結果だけに焦点を当てる。 そして選手自身を、“過去の後悔”の渦へと巻き込みかねない。

 

「引かないで行ってよかった」──比嘉大吾が選んだ“あと一歩”

2025年7月30日、横浜BUNTAI。 比嘉大吾選手はWBA世界バンタム級タイトルマッチで王者アントニオ・バルガスと対峙した。 4Rに左フックでダウンを奪い、11R終了時点ではジャッジ全員が比嘉を支持。 しかし最終12R、残り43秒。攻めた瞬間に右アッパーを被弾し、ダウン。 採点は113-113のドロー。 そして、引退を宣言した。

試合後、彼はこう語った。

「同じ過ちをした、みたいな感じですね。あそこで行って、倒されても仕方ないみたいなところもある。あそこで引かないで行ってよかったかなと思った」 「これが自分の実力だなと。3戦連続世界戦の中で一番、勝ちたかったというのはあった。勝っても負けても、やりきったらいいやと思っていたが、今回は何がなんでも勝ちたかった。2度あることは3度ある。ダウンして。これが比嘉さんなのかなと。あとちょっとのところで」

この言葉には、勝てなかった悔しさと、引かなかった誇りが同居している。 そしてそれは、“勝ちきれない”という状況にあるすべての選手への静かなメッセージでもある。

 

 “たられば”に抗うという選択

ギリギリで勝てなかった選手ほど、周囲は騒ぎ出す。 「あの時こうしていれば」「もっと〇〇していれば」 その声は、選手の心を過去へと引き戻す。

でも、たらればに引き込まれる必要はない。 なぜなら、選手自身が選んだ“今”こそが、最もリアルで、最も誇るべきものだから。

 

「あと一歩」の受け止め方が次の一歩を決める

実際のところ、「あと一歩届かなかった結果」を、選手自身がどう受け止めるかは、精神的な成長に大きな影響を与える。 東京大学の研究(2022年)によると、競技結果に関する自己評価の仕方によって、次の挑戦への意欲や集中力が顕著に変化することがわかっている。 評価を「自己の選択やプロセス」に軸を置くと、モチベーションは維持されやすい。 一方で「他人の期待」や「失敗への恐怖」に軸を置くと、消耗しやすくなる傾向がある。

心理学では「自己効力感」(Self-efficacy)という概念もある。 これは「自分には達成できる力がある」と感じられる感覚で、ミスや敗北を受けても自信を維持する源になる。

 

自己効力感を高める要素には以下がある
  1. 過去の成功体験(たとえ小さくとも)

 

  1. 周囲からの励ましや肯定的なフィードバック

 

  1. 他者の成功から得る間接的経験(モデリング)

 

  1. 持続的な努力の実感(日々の積み重ね)

 

特に最後の「持続的努力の実感」は、“勝ちきれない”状態にある選手にとっての支えとなる。 結果が伴わない日々でも、「自分が何を選択して取り組んでいるか」を意識化するだけで、心の回復力(レジリエンス)は高まっていく。

 

 “たられば”に引き込まれないための日々の実践法

では、どうすればそのような自分軸を育てられるのか?

 

科学的知見と競技者の経験をもとに、以下の実践法を提案する
  1. 日記・記録をとる(感情と選択の軌跡)

自分がどのような選択をし、何を感じたかを言語化する。  特に試合直後は「悔しさ」に覆われがちだが、そこにある“自分らしさ”を見つけることで、肯定感を育める。

 

  1. 「勝ち」以外の価値指標を持つ  

たとえば「冷静さ」「挑戦への姿勢」「準備の質」など。  これにより、勝敗だけで自分を評価しない心の軸ができてくる。

 

  1. 支えてくれる声を整理する  

周囲の「もっとこうすれば…」という声に対し、“肯定的フィードバック”と“自己否定を煽る声”を分けて受け止める。 前者は栄養となり、後者は距離を取る。

 

  1. 小さな“納得感”を重ねる

勝てなかったとしても、「こういう選択をした自分は正しかった」と振り返る時間を持つ。 それが心にとっての勝利となる。

 

 メンタルを整える伴走者の存在

“たられば”に巻き込まれないためには、選手自身の内省だけでなく、外からの支えも重要だ。そのひとつがスポーツメンタルコーチの存在。選手の思考や感情を整理し、自己効力感や自己決定感を育てるサポートをしている。「勝てなかった自分」を否定せず、「どう向き合うか」を共に探る存在は、競技人生の中で大きな支えとなる。

 

最後に──“引かなかった一歩”が、誰よりも美しい

勝てなかったことは、敗北ではない。 それをどう受け止め、どう語るかが、選手の価値を決める。

比嘉大吾選手のように、 「引かないで行ってよかった」 そう言えるなら、それは“勝ちに等しい”。

勝ちきれない君へ。 たらればに惑わされず、自分の選択に誇りを持ってほしい。 その一歩が、誰よりも美しい。

 
さらに深く学びたい方へ過去のコラム紹介

競技者の“在り方”に焦点をあてた過去のコラム。

 「結果に左右されず成長する!トップアスリートの思考法と競技者のメンタル戦略」

比嘉選手の話とは別の文脈で書いており、勝敗にとらわれない思考習慣の重要性を語っています。

  1. 成功後の冷静な振り返り
  2. 失敗後も前向きに修正する姿勢
  3. 勝敗を超えた日々の積み重ね
  4. 思考を切り替える技術

などを紹介しています。競技者としての安定感と成長力を支えるヒントにしてもらえればと思います。

興味のある方はこちらから!

コラム著者
プロスポーツメンタルコーチ上杉亮平
全てのアスリートが競技を楽しみ、自分らしさを輝かせる世界を創る。ことを目指し
「メンタルで視点(せかい)が変わる」この言葉胸にアスリートを自己実現へと導くサポートをしています。詳しくはこちら

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