競技者にとって“緊張”は、避けられないテーマです。 試合前に胸がざわつく。 大事な場面で手が震える。 期待されるほど体が固まる。 練習ではできるのに、本番になると頭が真っ白になる。
そんな自分を見て、 「自分はメンタルが弱いのではないか」 「もっと強くならなきゃいけない」 「緊張しない人が羨ましい」 そう思ってしまう競技者は少なくありません。
でも、ここで一つだけ伝えたいことがあります。
これは慰めでも、精神論でもありません。 脳科学の観点から見ても、緊張しやすい人ほど“伸びる素質”を持っています。 むしろ、緊張しない人よりも、緊張する人の方が成長速度が速いこともある。
なぜか。 その理由を、脳の働きと競技者のリアルを交えながら、丁寧に紐解いていきます。
緊張とは「脳が本気になっている証拠」
人が緊張するとき、脳の中では“扁桃体(へんとうたい)”という領域が強く反応します。 扁桃体は、危険や不安を察知する“感情のセンサー”のような場所です。
試合前に心拍数が上がる。 呼吸が浅くなる。 手が冷たくなる。 頭が冴えるような、逆にぼんやりするような感覚が出る。
これらはすべて、扁桃体が 「これは重要な場面だ」 と判断したときに起こる反応です。
つまり、緊張とは 脳が“本気モード”に切り替わったサイン。
本気でない場面では、脳はここまで反応しません。 どうでもいい試合、どうでもいい練習では、人は緊張しない。
緊張するということは、 あなたがその場に価値を感じている証拠。 あなたが本気で向き合っている証拠。
これは、競技者としての才能の一つです。
緊張しやすい人ほど「前頭前野」が強い
脳科学の研究では、緊張しやすい人ほど“前頭前野”がよく働く傾向があると言われています。
前頭前野は、 ・集中 ・判断 ・自己コントロール ・理想のイメージ ・未来のシミュレーション を司る場所です。
この前頭前野が強い人ほど、 「もっと良くありたい」 「もっと高いレベルでやりたい」 「失敗したくない」 という意識が強くなります。
その結果、 理想と現実のギャップを敏感に感じ取り、緊張が生まれる。
つまり、緊張しやすい人は、 理想が高く、向上心が強く、未来を描く力がある。
これは、競技者として非常に大きな才能です。
緊張は「脳の成長スイッチ」を押す
緊張すると、脳内ではドーパミンが分泌されます。 ドーパミンは“やる気”や“集中力”を高める神経伝達物質です。
そして、緊張とドーパミンがセットで起こると、 脳の回路は強化され、 「次はもっとできる」 という学習が進みます。
つまり、緊張するたびに脳は鍛えられ、 あなたの競技力は少しずつ進化していく。
緊張しない人は、この“成長スイッチ”が押されにくい。 だから、緊張しやすい人の方が、 伸びしろが大きい。
緊張は「自分の価値を知っている人」にしか起こらない
緊張とは、 「自分の価値が試される」 と脳が判断したときに起こります。
期待されている。 自分の努力を見せたい。 結果を出したい。 負けたくない。 応えたい人がいる。
こうした“価値のある場面”でしか、脳は緊張しません。
つまり、緊張するということは、 あなたが自分の価値を知っている証拠。 あなたが大切にしているものがある証拠。
これは、競技者としての誇りです。
緊張を「敵」ではなく「味方」にする
緊張を完全に消すことはできません。 むしろ、消す必要もありません。
大切なのは、 緊張を“敵”ではなく“味方”に変えること。
そのためにできることを、いくつか紹介します。
緊張を「悪いもの」と決めつけない
緊張=弱さ、という思い込みを手放すだけで、心の負担は驚くほど軽くなります。
多くの競技者は、緊張した瞬間に「ダメだ」「また失敗するかもしれない」と自動的にネガティブな意味づけをしてしまいます。でも、緊張そのものには“良い・悪い”というラベルはありません。緊張はただの生理反応であり、脳が「これは大事な場面だ」と判断したときに起こる自然な反応です。
つまり、緊張はあなたの本気度を映す鏡。 悪いものではなく、むしろ“価値のある場面に立っている証拠”です。
この視点を持つだけで、緊張に対する抵抗感が薄れ、心のスペースが広がります。
呼吸で扁桃体を落ち着かせる
深く長い呼吸は、脳の中で暴れ始めた扁桃体を静かに落ち着かせ、前頭前野の働きを取り戻します。
緊張すると、扁桃体が「危険だ」と判断し、身体を戦闘モードに切り替えます。心拍数が上がり、呼吸が浅くなり、体が固くなるのはそのためです。この状態では、集中力や判断力を司る前頭前野が働きにくくなり、パフォーマンスが低下します。
そこで効果的なのが“呼吸”。 深く、ゆっくりと息を吸い、長く吐く。 これだけで自律神経が整い、扁桃体の過剰反応が静まり、前頭前野が再び機能し始めます。
呼吸は、最もシンプルで、強力なメンタルスキルにもなります。
緊張を「準備が整ったサイン」と捉える
「緊張してきた。よし、脳が本気になってきた。」 この言葉ひとつで、脳の反応は変わります。
脳は“言葉”に強く影響されます。 同じ緊張でも、「やばい」と思えば扁桃体がさらに反応し、「よし、準備が整った」と思えば前頭前野が働きやすくなる。
つまり、緊張をどう“意味づけるか”で、脳の状態は大きく変わる。
緊張=危険 ではなく 緊張=準備完了 と捉えるだけで、身体の反応が味方に変わり、集中力が高まりやすくなります。
緊張を“コントロールする”のではなく“共存する”
緊張は消すものではありません。 むしろ、消そうとすると余計に強くなります。
「緊張しないようにしよう」と思えば思うほど、脳はその緊張に意識を向けてしまい、逆に反応が強まる。これは“白クマ効果”と呼ばれる心理現象で、「考えるな」と言われるほど考えてしまうのと同じ仕組みです。
だから大切なのは、緊張を消すことではなく、 緊張と一緒にプレーする感覚を身につけること。
緊張していても動ける。 緊張していても集中できる。 緊張していても自分のプレーができる。
この“共存”の感覚が身につくと、緊張はあなたの邪魔をしなくなり、むしろ集中力を高めるエネルギーに変わっていきます。
緊張するあなたへ──最後に伝えたいこと
緊張するのは、あなたが弱いからではありません。 あなたが本気だからです。 あなたが理想を持っているからです。 あなたが大切にしているものがあるからです。
そして、緊張する人ほど、伸びる。 脳が成長し、競技力が進化していく。
だから、緊張する自分を責めなくていい。 むしろ、その緊張を誇っていい。
あなたは、すでに才能を持っている。 その才能をどう扱うかだけです。
今日も、あなたが少しでも心軽く、 そして自分の力を信じて前に進めることを願っています。
あなたの勇気ある一歩を、心から応援しています。