スポーツメンタルコーチ上杉亮平
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頭では分かっているのに変われない──思考の限界と心をほどく余白の話

 

「分かっているのに、なぜか楽にならない」そんな感覚に、心当たりはありませんか?

何度も自分を振り返り、言葉にして、理解しているはずなのに、なぜか苦しさが残る。

思考は深まっているし、気づきも増えている。

それでも、心が軽くならない。

このコラムでは、そんな“理解しても楽にならない”という現象の背景にある「思考の限界」について、静かに探っていこうと思います。

 

理解は進んでいるのに、なぜ苦しい?

自己理解が進むと、確かに見える景色は変わる。

 

「自分はこういう傾向がある」「この感情はこういう背景がある」

 

そうやって言語化できるようになると、少し安心する。

 

でも、ある地点から、理解が“重さ”に変わることがあります。

 

それは、理解が深まるほどに「分かっているのに変われない自分」に出会ってしまうから。

 

気づいているのに、また同じパターンを繰り返してしまう自分がいる。

 

観察できているのに、感情に飲まれてしまう自分がいる。

 

その繰り返しが、「分かっているのに、なんで?」という苦しさを生むのです。

 

思考の限界──“分かる”ことがすべてではない

思考は、私たちの理解を助けてくれる大切な道具です。

 

ただ、思考には限界があると考えます。

 

それは、「思考は常に“何かを変えようとする”」という性質を持っているからです。

 

  1. 苦しさを減らしたい。

 

  1. 感情を整理したい。

 

  1. もっと良い自分になりたい。

 

そうやって、思考は“答え”を探し続けます。

 

でも、心の深い部分にあるものは、必ずしも“答え”でほどけるものではないということ。

人間ってそんなに単純ではないということ。

むしろ、答えを探すほどに、緊張や焦りが生まれてしまうこともある。

とても複雑な生き物。

 

「分かっている自分」が苦しみを生むこともある

自己理解が進むと、「分かっている自分」が立ち上がります。

 

その自分は、冷静に観察し、分析し、言語化できる。

でも、その“立ち位置”そのものが、無意識のうちに緊張や苦しみを生み出していることがあります。

 

たとえば、

 

「分かっているのに、なぜできない?」

 

「気づいているのに、なぜ楽にならない?」

 

その問いが、さらに自分を追い込んでしまう。

つまり、理解が深まるほどに、苦しみの構造も複雑になっていくんです。

 

じゃあ、どうすればいい?

大切なのはことは、「何かを変えようとしない時間」を意識的につくること。

 

私たち人間は、苦しさを感じるとすぐに“答え”を探そうとします。

 

  1. どうすればいい?

 

  1. なぜこうなる?

 

  1. 次はどう動けばいい?

 

その姿勢は素晴らしいけれど、同時に、思考がずっと緊張し続けてしまうんです。

 

だからこそ、一度その流れを止める必要があります。

 

  1. 答えを探さない。

 

  1. 改善しようとしない。

 

  1. 意味をつけようとしない。

 

ただ、静かに“今の自分”を感じる時間をつくる。

 

これは怠けることでも、逃げることでもないということ。

むしろ、心の奥にある本音が浮かび上がるための“準備”のようなものです。

 

たとえば、こんな時間の使い方があります。

 

1分だけ、呼吸の動きを感じる

深呼吸ではなく、ただ自然な呼吸の動きを感じるだけ。

胸がどう動くか、空気がどこを通るか、身体のどこが温かいか。

「感じよう」と頑張らなくていいので、ただ、呼吸が“勝手に起きている”ことに気づくだけで十分です。

 

ぼーっと空や天井を見る

意味を探さない。 考えを整理しようとせずに、ただ視界に入ってくるものを眺める。

そうすることで、自然と思考のスピードが少しずつ落ちていきます。

まるで、走り続けていた車がゆっくり減速していくように。

 

感情に名前をつけずに、そのまま感じる

「これは不安だ」「これは怒りだ」とラベルを貼らないこと。

ただ胸のあたりがざわつく感じ、肩が重い感じ、目の奥が疲れている感じてその“質感”だけを感じる。

言葉にしないことで、逆に心がほどけることがある。

 

絵本や写真集を“意味なく”めくる

ページをめくる音、紙の手触り、色の広がりなど、そこに意味を求めない時間は、思考の緊張をゆるめてくれる。

大人になると「意味のある時間」を求めがちですが、 意味のない時間こそ、心の回復には必要なんですよね。

 

散歩しながら、歩くリズムだけを感じる

よく私自身がやっていることですが、考え事をしながら歩くのではなく、 足が地面に触れる感覚、風の温度、靴の重さ── 身体の“今”に意識を向ける。

すると、頭の中のノイズが少しずつ静かになっていきます。

 

こうした時間は、すべて“余白”の時間です。

 

余白とは、何もしないことではなく、 「何かを変えようとしないこと」

 

その瞬間、思考は休むことができる。

休んだ思考は、また自然と動き出す。 そのときには、さっきまでとは違う柔らかさを持っている。

余白を持てる人は、思考の質も、行動の質も、自然と整っていきます。

 

理解よりも、感じること

理解は、頭で起こることであり、感じることは、身体で起こることです。

どちらも大切ですが、苦しさが続くときは、理解よりも“感じること”に意識を向けると、少しずつ心が整っていきます。

 

「今、何を感じている?」

 

「どこに力が入っている?」

 

「どんな音が聞こえている?」

 

そんな問いを、自分にそっと投げかけてみることで、思考の渦から少しだけ離れることができます。

 

思考に疲れたときこそ、余白を

もし今、理解に疲れているなら、

これ以上、前に進めない感覚があるなら、

何かを変えようとせず、答えを見つけようともせず、

ただ、静かに余白を残してみてください。

その余白が、思考の限界をやさしくほどいてくれるかもしれません。

 

最後のメッセージ

「分かっているのに楽にならない」──その感覚は、あなたが深く向き合っている証です。

 

思考は、あなたを助けてくれる道具にもなりますが、すべてを思考でほどこうとすると、逆に苦しさが増すこともある。

 

だからこそ、余白を持つことも大切にしてみてください。

 

感じる時間を持つ。

 

何かを“しようとしない”時間を、意識的につくってみる。

 

それが、思考の限界を超える第一歩になるかもしれません。

 

そしてその一歩は、あなたの心を、静かに、でも確かに、軽くしてくれるはずです。

 

最後までお読み頂きありがとうございました。

 

コラム著者
プロスポーツメンタルコーチ上杉亮平
全てのアスリートが競技を楽しみ、自分らしさを輝かせる世界を創る。ことを目指し
「メンタルで視点(せかい)が変わる」この言葉胸にアスリートを自己実現へと導くサポートをしています。詳しくはこちら

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