“感情の波”を競技力に変える──情動とパフォーマンスの関係性

「感情に振り回されるな」 「冷静にプレーしろ」 「気持ちを切り替えろ」
競技の現場では、こうした言葉がよく飛び交います。 確かに、感情の揺れがパフォーマンスに悪影響を及ぼす場面は少なくありません。 ミスを引きずってしまう。怒りで判断が鈍る。不安で身体が硬くなる。
しかし、ここで一つ問いを立ててみたいのです。 「感情は、競技の邪魔者なのか?」 もしかするとそれは、使い方次第で“武器”になるものかもしれません。
感情は“邪魔”ではなく“エネルギー”
まず前提として、感情は人間の脳にとって極めて自然な反応です。 怒り、悔しさ、喜び、不安──これらはすべて、脳が状況を評価し、行動を促すための“信号”です。
特に競技のような高負荷・高集中の場面では、感情は以下のような役割を果たします。
- 注意を向ける方向を決める(例:怒りが相手に向く、不安が自分に向く)
- 行動の強度を高める(例:悔しさがリベンジの力になる)
- 記憶を定着させる(例:強い感情がプレーの記憶を鮮明にする)
つまり、感情は“邪魔”ではなく、脳が状況に反応して生み出すエネルギーなのです。
感情とパフォーマンスの関係性──科学的視点
運動・スポーツ心理学の研究では、感情がパフォーマンスに与える影響は以下のように整理されています。
- ポジティブ感情(喜び・興奮)は、創造性や反応速度を高める
- ネガティブ感情(怒り・不安)は、集中力や闘争心を高めるが、過剰だと判断力を下げる
- 感情の“強さ”よりも“扱い方”がパフォーマンスを左右する
特に注目すべきは、「怒りの扱い方」です。 ある研究では、怒りを適切にコントロールできる選手は、そうでない選手よりも試合での勝率が平均42%高いというデータもあります。
“感情の波”が競技力を下げるとき
感情がパフォーマンスを下げるのは、以下のようなケースです。
1. 感情に“飲み込まれる”とき
2. 感情を“抑えすぎる”とき
3. 感情の“意味”を誤解しているとき
- 「怒り=悪いもの」「不安=弱さ」と思い込むことで、感情を否定してしまう
これらはすべて、感情との“関係性”がうまく築けていない状態です。
“感情の波”を競技力に変える3ステップ
では、どうすれば感情を“味方”にできるのでしょうか? ここでは、実践的な3つのステップをご紹介します。
1. 感情を“否定せず、観察する”
まず大切なのは、感情を否定しないことです。 「また怒ってしまった」「不安になってしまった」と責めるのではなく、 「今、怒りがあるな」「不安が湧いてきたな」と、一歩引いて観察する姿勢が重要です。
これは「メタ認知」と呼ばれる力で、 感情を“自分”と切り離して見ることで、冷静な判断がしやすくなります。
2. 感情を“言語化”する
次に有効なのが、感情を言葉にすることです。
- 「今の怒りは、ミスへの悔しさだ」
- 「この不安は、失敗したくない気持ちから来ている」
- 「嬉しいのは、仲間とつながれたからだ」
こうした言語化は、脳の前頭前野を活性化させ、感情の暴走を抑える効果があります。 また、言葉にすることで、感情の“意味”を再定義できるようになります。
3. 感情を“行動に変換”する
最後に重要なのが、感情を行動に変えることです。
- 怒り → 「次のプレーで取り返す」
- 不安 → 「準備を丁寧にする」
- 喜び → 「仲間に声をかける」
このように、感情を“行動の燃料”として使うことで、 感情の波は、競技力を押し上げる推進力になります。
感情は“波”であり、“流れ”である
感情は、止めるものではなく、流すものです。 波のように揺れながら、流れのように動いていく。
その波に飲まれるのではなく、 その流れに乗ることができれば、 感情はあなたの競技力を支える“内なるエンジン”になります。
まとめ:感情と競技力の新しい関係性
- 感情は脳が生み出す自然なエネルギー
- 感情の“扱い方”がパフォーマンスを左右する
- 否定せず、観察し、言語化し、行動に変えることで、感情は武器になる
“感情に振り回されるな”ではなく、 “感情を味方につけよう”という視点が、 これからの競技者にとって、重要になるのかもしれません。
感情の波は、あなたの中にある“生きている証”です。 その波を消そうとするのではなく、どう乗るか、どう使うか。 それを学ぶことは、競技力を高めるだけでなく、自分自身との信頼関係を深めることにもつながります。
怒ってもいい。不安になってもいい。 大切なのは、その感情を「どう扱うか」を知っていること。 そして、どんな感情が来ても「自分は大丈夫」と思える土台を育てていくこと。
感情の波を恐れず、むしろその波に乗って進んでいく。 その先にこそ、あなたらしい競技の輝きが待っているはずです。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者