競技者の集中力を守る“やらないことリスト”のすすめ

「もっとやるべきことを増やさなきゃ」 「足りない部分を補わなきゃ」 競技者として成長したいと願うほど、やるべきことは増えていきます。
しかし、実はその思考こそが、パフォーマンスを下げる原因になっているかもしれません。 本当に必要なのは、“やること”を増やすことだけではなく、“やらないこと”を決めることです。
今回は、競技者の集中力とメンタルを整えるための「引き算の思考」について、科学的な視点と実践的な方法を交えてお伝えします。
情報過多の時代に、脳は疲弊しています
現代の競技者は、かつてないほど多くの情報にさらされています。 SNS、動画、分析ツール、トレーニング理論── 「これもやった方がいい」「あれも取り入れるべきだ」と、やることがどんどん増えていきます。
しかし、脳には処理できる情報量の限界があります。 認知心理学では「認知的負荷(cognitive load)」という概念があり、脳が同時に処理できる情報は限られているとされています。 やることが多すぎると、脳は“選択疲れ”を起こし、集中力や判断力が低下してしまいます。
さらに、情報が多すぎると「何を優先すべきか」が曖昧になり、行動の質が下がります。 これは、競技者にとって致命的な状態です。 やることを増やすほど、脳のパフォーマンスは下がる──この事実をまず受け入れる必要があります。
トップアスリートは「やらないこと」を排除する工夫をしています
一流の競技者の多くは、やるべきことを増やすよりも、余計な刺激や判断を減らす工夫をされています。 その姿勢は、結果的に「やらないことを決める」ことにつながっているといえます。
たとえば、大谷翔平選手は、日々のルーティンを非常に大切にされており、試合前の準備や生活習慣においても一貫性を保つことを意識されています。 同じ時間に同じことを行うことで、余計な判断や刺激を排除し、集中力を高めていると報じられています。
このように、「やらないことを決める」という姿勢は、競技者の集中力とメンタルを守るための戦略として、実際にトップレベルで活用されています。
「やらないこと」を決めると、集中力が研ぎ澄まされます
脳科学では、注意資源という概念があります。 人間の注意力は有限であり、あちこちに分散させると、どれも中途半端になってしまいます。
だからこそ、「やらないこと」を決めることで、注意資源を一点に集中させることができます。
たとえば、
- 試合前はスマホを見ない
- 練習中は技術以外のことを考えない
- 大会期間中はSNSを遮断する
- ルーティン以外の新しいことは試さない
こうした“引き算の設計”が、脳のリソースを守り、競技に集中する土台になります。
さらに、注意資源を守ることは「感情の安定」にもつながります。 余計な情報や刺激を遮断することで、感情の揺れが減り、冷静な判断ができるようになります。
「やらないことリスト」を作ってみましょう
実践的な方法としておすすめなのが、「やらないことリスト」の作成です。 これは、日常や競技の場面で“自分の集中を妨げるもの”をあらかじめ排除するためのリストです。
例としては、
- 試合前日に新しい技術を試さない
- 練習中に他人の評価を気にしない
- 結果に一喜一憂しない
- 疲れているときに無理にSNSを更新しない
- 自分のペースを乱す誘いには乗らない
このように、「やらないこと」を明確にすることで、自分の軸がぶれにくくなります。 そして、やるべきことに深く集中できるようになります。
ポイントは、「やらないこと」をネガティブに捉えないことです。 それは“制限”ではなく、“選択”であり、“守るための戦略”なのです。
「やらないこと」は、自分を守る境界線です
競技者にとって、「やらないこと」を決めることは、単なる効率化ではありません。 それは、自分の集中力・感情・価値観を守るための“境界線”でもあります。
- 他人の期待に振り回されない
- 自分のリズムを守る
- 自分の価値観に沿った選択をする
これらはすべて、「やらないこと」を決めることで実現できます。 そしてその境界線が、競技者としての“自分軸”を育ててくれます。
境界線が曖昧だと、他人の言葉や環境に流されやすくなります。 だからこそ、「やらないこと」を明確にすることで、自分の土台が安定するのです。
「やらないこと」を決めることで、迷いが減ります
競技の現場では、瞬時の判断が求められます。 そのとき、迷いがあると反応が遅れてしまいます。 「やること」を増やすほど、選択肢が増え、迷いも増えてしまいます。
だからこそ、「やらないこと」を決めておくことで、判断が速くなり、迷いが減ります。 これは、競技者にとって極めて重要なメンタルスキルです。
たとえば、試合中に「この場面で何をすべきか」と迷うよりも、 「この場面ではこれだけはしない」と決めておくことで、選択が絞られ、反応が速くなります。
迷いが減ることで、プレーの質も安定し、メンタルの揺れも少なくなります。 これは、競技者の“本番力”を高めるための重要な要素です。
やることを増やすより、やらないことを明確にする
競技者として成長したいなら、まず「やること」を増やすのではなく、「やらないこと」を決めることです。 それが、脳のリソースを守り、集中力を高め、迷いを減らし、自分軸を育てる最も効果的な方法です。
やらないことを決めることは、自分の価値観を明確にすることでもあります。 そしてその価値観が、競技者としての“本質的な強さ”につながっていきます。
あなたは、今日どんな「やらないこと」を決めますか?
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者