やる気に頼るな──競技者の脳が動き出す“行動の科学”

やる気スイッチは存在しません
「やる気が出たらやる」── この考え方は、一見自然に思えるかもしれません。 ですが、脳の仕組みから見ると、これは非効率で不安定な戦略です。
やる気とは、脳内の報酬系が活性化したときに感じる“快”の感覚です。 その中心にあるのが、側坐核と呼ばれる領域で、ここが活性化するとドーパミンが分泌され、意欲や快感が生まれます。
しかしこの側坐核は、“報酬の予測”や“行動の開始”によって活性化します。 つまり、動き出して初めて、やる気が生まれるのです。
脳の“作業興奮”という仕組み
脳には「作業興奮」と呼ばれるメカニズムがあります。 これは、何かを始めることで脳が活性化し、集中力や意欲が高まっていく現象です。
たとえば、机に向かってペンを持つだけで、脳は「作業が始まった」と認識し、前頭前野や報酬系が動き出します。 このとき、ドーパミンが分泌され、「もっとやりたい」「続けたい」という感覚が生まれます。
つまり、やる気は“始めた後”に出てくるものです。 待っていても来ません。動けば、勝手に湧いてくるのです。
行動→やる気→さらに行動
この流れを整理すると、こうなります。
行動 → やる気 → さらに行動
- まず小さな行動を起こすことで、脳が「始まった」と認識します
- 報酬系が動き出し、ドーパミンが分泌されます
- その結果、やる気が生まれ、「もっとやりたい」「続けたい」という感覚が湧いてきます
- そしてそのやる気が、次の行動を後押ししてくれます
このように、行動がやる気を生み、やる気が次の行動を促すという循環が、脳の自然な働きです。
犬と餌の例に見る「行動のきっかけ」
犬に餌を見せると、すぐに立ち上がって餌の方へ向かいます。 これは「やる気が出たから動いた」のではなく、餌という刺激が脳の報酬系を活性化させ、行動が始まったということです。
人間も同じです。 やる気を待つのではなく、脳が反応する“きっかけ”を設計することが、行動を生み出す鍵になります。
やる気に頼ると不安定になる理由
やる気は、情動に依存した不安定な状態です。 気分、体調、天気、人間関係──あらゆる要因に左右されます。
これは、脳の報酬系が「快の予測」に反応する仕組みによるものです。 つまり、脳が「これをやれば気持ちいい」と予測できないと、ドーパミンが分泌されず、やる気は生まれません。
競技者にとって、これは非常に厄介です。 なぜなら、試合や練習の場面では、常に気分が整っているとは限らないからです。 プレッシャー、疲労、焦り、周囲の期待──それらが重なると、脳は「快の予測」よりも「回避の予測」に傾き、やる気はさらに遠のいてしまいます。
だからこそ、やる気に頼ると、行動が止まってしまうのです。 「やる気が出ないから今日はやらない」という選択が積み重なると、競技者としての土台が揺らいでしまいます。 やる気は、あくまで“結果”であり、“条件”にしてはいけない。 この視点の切り替えが、安定した行動力を生む第一歩になります。
行動を先に置く思考法
競技者にお伝えしたいのは、「やる気が出たらやる」ではなく「やるからやる気が出る」という思考の切り替えです。
- まず靴を履く
- まずグラウンドに立つ
- まずボールに触れる
この「まずやる」が、脳を動かすスイッチになります。 そして、動き出した脳は、やる気を後から生み出してくれます。
これは、脳の“作業興奮”という仕組みによるものです。 何かを始めることで、前頭前野や側坐核が活性化し、ドーパミンが分泌されます。 その結果、「もっとやりたい」「続けたい」という感覚が自然に湧いてくるのです。
重要なのは、行動のサイズを小さくすること。 「やる気が出ない日でもできること」を用意しておくことで、脳は“始まった”と認識し、報酬系が動き出します。
たとえば、 「今日は走る気がしない」なら、まず外に出てみる。 「トレーニングが重く感じる」なら、まず1セットだけやってみる。 このように、行動のハードルを下げることで、やる気を後から呼び込む設計が可能になります。
競技者にとって、これは“自分を動かす技術”です。 やる気に左右されない行動力は、試合の本番でも、日々の積み重ねでも、確かな武器になります。
小さな行動が脳を動かします
行動のハードルは、できるだけ低くすることがポイントです。 脳は「ちょっと頑張ればできそうなこと」に対して報酬系が反応します。
- 5分だけ走る
- 1セットだけ筋トレする
- 1ページだけノートを書く
このような“小さな行動”が、脳の報酬系を刺激し、やる気を引き出してくれます。
習慣化が“やる気不要”の状態をつくります
繰り返し行動することで、脳はその動作を「自動化」します。 これは、大脳皮質から大脳基底核への処理の移行によって起こります。
つまり、習慣化された行動は、やる気がなくても実行できます。 競技者にとって、これは最強の武器になります。
実践例:競技者の“やる気に頼らない習慣”
- 朝起きたらすぐにストレッチをする
- 練習前に必ずルーティンを入れる
- 試合前に「やる気がなくてもやることリスト」を用意する
- 練習後に「今日の小さな達成」を記録する
これらはすべて、行動を先に置く設計です。 やる気がなくても、動ける仕組みをつくることが重要です。
最後に
──やる気は結果であり目的ではない
やる気とは、行動の結果として生まれる“副産物”です。 それを目的にしてしまうと、動けなくなってしまいます。 でも、行動を目的にすれば、やる気は自然とついてきます。
競技者として、やる気に振り回されるのではなく、 “行動を積み重ねることで、やる気を育てる”という視点を持っていただきたいです。
それが、安定したパフォーマンスと、ブレない自分軸をつくる土台になります。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者