スポーツメンタルコーチ上杉亮平
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やる気に頼るな──競技者の脳が動き出す“行動の科学”

 

「やる気が出ない」「やる気スイッチが入らない」── それは、競技者にとっても身近な葛藤のひとつです。

しかし、脳科学の視点から見れば、やる気とは“行動の結果”であり、行動の前提ではありません。

つまり、「やる気→行動」ではなく、「行動→やる気→さらに行動」。 この逆転の発想こそが、競技者のパフォーマンスを支える鍵になります。

 

やる気スイッチは存在しません

「やる気が出たらやる」── この考え方は、一見自然に思えるかもしれません。 ですが、脳の仕組みから見ると、これは非効率で不安定な戦略です。

やる気とは、脳内の報酬系が活性化したときに感じる“快”の感覚です。 その中心にあるのが、側坐核と呼ばれる領域で、ここが活性化するとドーパミンが分泌され、意欲や快感が生まれます。

しかしこの側坐核は、“報酬の予測”や“行動の開始”によって活性化します。 つまり、動き出して初めて、やる気が生まれるのです。

 

脳の“作業興奮”という仕組み

脳には「作業興奮」と呼ばれるメカニズムがあります。 これは、何かを始めることで脳が活性化し、集中力や意欲が高まっていく現象です。

たとえば、机に向かってペンを持つだけで、脳は「作業が始まった」と認識し、前頭前野や報酬系が動き出します。 このとき、ドーパミンが分泌され、「もっとやりたい」「続けたい」という感覚が生まれます。

つまり、やる気は“始めた後”に出てくるものです。 待っていても来ません。動けば、勝手に湧いてくるのです。

 

行動→やる気→さらに行動

この流れを整理すると、こうなります。

 

行動 → やる気 → さらに行動
  1. まず小さな行動を起こすことで、脳が「始まった」と認識します

 

  1. 報酬系が動き出し、ドーパミンが分泌されます

 

  1. その結果、やる気が生まれ、「もっとやりたい」「続けたい」という感覚が湧いてきます

 

  1. そしてそのやる気が、次の行動を後押ししてくれます

 

このように、行動がやる気を生み、やる気が次の行動を促すという循環が、脳の自然な働きです。

 

犬と餌の例に見る「行動のきっかけ」

犬に餌を見せると、すぐに立ち上がって餌の方へ向かいます。 これは「やる気が出たから動いた」のではなく、餌という刺激が脳の報酬系を活性化させ、行動が始まったということです。

人間も同じです。 やる気を待つのではなく、脳が反応する“きっかけ”を設計することが、行動を生み出す鍵になります。

 

やる気に頼ると不安定になる理由

やる気は、情動に依存した不安定な状態です。 気分、体調、天気、人間関係──あらゆる要因に左右されます。

 

  • 疲れているときは出ない

 

  • 気分が沈んでいるときは出ない

 

  • 失敗が続くと出ない

 

これは、脳の報酬系が「快の予測」に反応する仕組みによるものです。 つまり、脳が「これをやれば気持ちいい」と予測できないと、ドーパミンが分泌されず、やる気は生まれません。

競技者にとって、これは非常に厄介です。 なぜなら、試合や練習の場面では、常に気分が整っているとは限らないからです。 プレッシャー、疲労、焦り、周囲の期待──それらが重なると、脳は「快の予測」よりも「回避の予測」に傾き、やる気はさらに遠のいてしまいます。

だからこそ、やる気に頼ると、行動が止まってしまうのです。 「やる気が出ないから今日はやらない」という選択が積み重なると、競技者としての土台が揺らいでしまいます。 やる気は、あくまで“結果”であり、“条件”にしてはいけない。 この視点の切り替えが、安定した行動力を生む第一歩になります。

 

行動を先に置く思考法

競技者にお伝えしたいのは、「やる気が出たらやる」ではなく「やるからやる気が出る」という思考の切り替えです。

 

  1. まず靴を履く

 

  1. まずグラウンドに立つ

 

  1. まずボールに触れる

 

この「まずやる」が、脳を動かすスイッチになります。 そして、動き出した脳は、やる気を後から生み出してくれます。

これは、脳の“作業興奮”という仕組みによるものです。 何かを始めることで、前頭前野や側坐核が活性化し、ドーパミンが分泌されます。 その結果、「もっとやりたい」「続けたい」という感覚が自然に湧いてくるのです。

重要なのは、行動のサイズを小さくすること。 「やる気が出ない日でもできること」を用意しておくことで、脳は“始まった”と認識し、報酬系が動き出します。

たとえば、 「今日は走る気がしない」なら、まず外に出てみる。 「トレーニングが重く感じる」なら、まず1セットだけやってみる。 このように、行動のハードルを下げることで、やる気を後から呼び込む設計が可能になります。

競技者にとって、これは“自分を動かす技術”です。 やる気に左右されない行動力は、試合の本番でも、日々の積み重ねでも、確かな武器になります。

 

小さな行動が脳を動かします

行動のハードルは、できるだけ低くすることがポイントです。 脳は「ちょっと頑張ればできそうなこと」に対して報酬系が反応します。

 

  1. 5分だけ走る

 

  1. 1セットだけ筋トレする

 

  1. 1ページだけノートを書く

 

このような“小さな行動”が、脳の報酬系を刺激し、やる気を引き出してくれます。

 

習慣化が“やる気不要”の状態をつくります

繰り返し行動することで、脳はその動作を「自動化」します。 これは、大脳皮質から大脳基底核への処理の移行によって起こります。

つまり、習慣化された行動は、やる気がなくても実行できます。 競技者にとって、これは最強の武器になります。

 

実践例:競技者の“やる気に頼らない習慣”
  1. 朝起きたらすぐにストレッチをする

 

  1. 練習前に必ずルーティンを入れる

 

  1. 試合前に「やる気がなくてもやることリスト」を用意する

 

  1. 練習後に「今日の小さな達成」を記録する

 

これらはすべて、行動を先に置く設計です。 やる気がなくても、動ける仕組みをつくることが重要です。

 

最後に

──やる気は結果であり目的ではない

やる気とは、行動の結果として生まれる“副産物”です。 それを目的にしてしまうと、動けなくなってしまいます。 でも、行動を目的にすれば、やる気は自然とついてきます。

競技者として、やる気に振り回されるのではなく、 “行動を積み重ねることで、やる気を育てる”という視点を持っていただきたいです。

それが、安定したパフォーマンスと、ブレない自分軸をつくる土台になります。

 

最後までお読み頂きありがとうございました。

 

コラム著者
プロスポーツメンタルコーチ上杉亮平
全てのアスリートが競技を楽しみ、自分らしさを輝かせる世界を創る。ことを目指し
「メンタルで視点(せかい)が変わる」この言葉胸にアスリートを自己実現へと導くサポートをしています。詳しくはこちら

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