「自分の目標を生きる」──支える力を育てるスポーツメンタルコーチの軸

目標は“誰かのため”でも“自分のため”でもある
こんにちは。スポーツメンタルコーチの上杉亮平です。
私は日々、競技者のメンタル面を支える仕事をしています。 「全国大会で優勝したい」「プロになりたい」「日本代表に入りたい」── そんな選手たちの目標に触れ、整理し、実現に向けて伴走することが、いつしか私の“日常”になっていました。
でも、ある時ふと立ち止まったのです。 「自分の目標って、今どこにあるんだろう?」と。
目標の“すり替え”は静かに起こる
選手の目標に真剣に向き合うほど、 その目標が、まるで“自分の目標”のように感じてしまう瞬間があります。
「この選手が結果を出すことが、自分の成果」 「このチームが勝つことが、自分の達成」 そんなふうに、無意識に“すり替え”が起こるのです。
もちろん、それは悪いことではありません。 むしろ、選手の目標に本気で向き合っている証でもあります。
でも──選手の目標は選手のもの。自分の目標は、自分のもの。 その境界線が曖昧になると、知らないうちに「自分の軸」が揺らぎ始めます。
チームの目標と、自分の目標
選手に伝えることがあります。 「それはチームの目標だよね?あなた自身の目標はなんだろう?」と。
でも、私自身も同じような感覚に陥っていたのかもしれません。 選手の目標を支えることが、自分の目標のように感じてしまっていた。 それが当たり前になりすぎて、自分の目標を見失いかけていた。
そんな中で最近
──自分の目標を見直す時間を持った
ふと立ち止まり、改めて「自分の目標」を見直す時間を持ちました。 壮大なビジョンボードにアップデートし、そこに向けての労力を注ぎ直しています。
なぜなら、自分の目標を持つことが、自分自身のメンタルを安定させるからです。 そしてその安定が、選手のメンタルを支える力にもなる。
選手が「自分の目標」に向かって努力しているように、 私も「自分の目標」に向かって努力する。 それが、スポーツメンタルコーチとしての“在り方”だと感じています。
メンタルは“目標の器”である
競技者にとって、メンタルとは「技術を支える土台」であり、 「目標に向かう推進力」でもあります。
でもそのメンタルは、ただ鍛えればいいわけではありません。 どんな目標に向かうのかによって、必要なメンタルの質が変わるのです。
たとえば──
- 日本代表を目指す選手には、長期的な視点と継続力が必要だったり
- 海外で活躍したい選手には、環境変化への適応力と自己信頼が必要だったり
- チームで結果を出したい選手には、協調性と役割理解が必要だったり
つまり、目標が定まっていないと、どんなメンタルを先に手に入れたら良いのか定まらない。 だからこそ、目標を明確することが大切なのです。
科学的にも「目標の明確化」はメンタルに影響する
心理学では、「目標の明確化」は自己効力感(self-efficacy)を高める要因とされています。 自己効力感とは、「自分はできる」という感覚のこと。 この感覚が高いほど、行動の継続力や困難への耐性が強くなることがわかっています。
また、脳科学的にも、目標を明確にすると「報酬系」が活性化し、 ドーパミンが分泌され、モチベーションが高まることが知られています。
つまり、目標はメンタルの“起点”であり、“方向性”でもあるのです。
他人の目標を“自分のもの”と勘違いしてしまう理由
人は、共感力が高いほど、他人の目標に強く感情移入します。 特に、支える立場にいる人ほど、「自分が達成させなければ」と感じやすくなります。
これは「代理的達成感」と呼ばれる心理現象で、 他人の成功を自分の成功のように感じることを指します。
この現象自体は自然なものですが、 それが続くと「自分の目標」がぼやけてしまい、 結果として自分のメンタルの軸も見失ってしまうのです。
自分の目標を持つことは、人のためにもなる
私が今やっている仕事は、競技者のメンタルを支えること。 つまり、自分の目標を達成することが、直接的に人の役に立つということです。
そして、その目標が実現すれば、より多くの競技者のためになり、 スポーツ業界全体を潤すことにもつながる。
だからこそ、選手の目標を大切にするのと同じように、 自分の目標も明確に持ち、その達成に相応しいメンタルを私自身も先に手に入れることが必要なのです。
目標を持つことで、選手の“揺れ”にも気づける
自分の目標を意識することで、選手の目標が揺らいでいる時にも、 その“違和感”に早く気づけるようになると思っています。
「今ちょっと軸がぶれているかもしれない」 「目標が“誰かのため”になりすぎているかもしれない」 そんな微細な変化に気づけるのは、 自分自身が“目標を持っている状態”だからこそだと思うのです。
自分の目標を生きるということ
選手の目標を支えメンタル面をサポートすることは、私の仕事の本質です。 でも、それと同じくらい、自分の目標を生きることも大切です。
それは、自己中心的になることではなく、 自分自身を大切にすること。自分の軸を持ち続けること。
そして、その軸があるからこそ、 選手の目標に本気で向き合えるのだと思います。
目標は、メンタルの“地図”です。 その地図がなければ、どんなに強い心を持っていても、進む方向を見失ってしまう。
だからこそ、私はこれからも── 目標を達成するに相応しいメンタルを先に手に入れるために、目標を持ち続けることを大切にしていきます。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者