翌日の自分を変える、眠る前の5分間

競技者のためのメンタル習慣と脳科学
競技者にとって、勝敗を分けるのは技術や体力だけではない。 むしろ、目に見えない「心の土台」こそが、長期的な成長と結果を左右する。
その土台を整える鍵が、意外にも「寝る前5分」と「眠っている間の脳の使い方」にあるとしたら── あなたはその時間を、どう使っているだろうか。
寝る前に出会う“自分を導く声”
人は眠りに入る直前、意識と無意識の境界がゆるみ、言葉やイメージが深く染み込む。 この状態は、脳波でいう「アルファ波」から「シータ波」への移行期。 この時、脳は外界の情報をフィルターせずに受け入れやすく、 自己暗示やポジティブなイメージが潜在意識に届きやすい。
競技者にとって、この時間はまさに“もうひとつのコーチ”との対話の場だ。 「自分はできる」「今日も成長した」「明日はもっと楽しめる」── そんな言葉を自分に投げかけるだけで、翌日の集中力や自己効力感が変わる。
逆に、「今日もダメだった」「あのミスが悔しい」といった否定的な言葉を繰り返せば、 潜在意識はそれを“現実”として受け取り、次のパフォーマンスに影を落とす。
睡眠中の脳は“記憶と感情”を再構築している
睡眠は単なる休息ではなく、脳が情報を整理し、感情を統合する時間。 とくに「レム睡眠」中には、感情記憶を司る扁桃体や、記憶の定着に関わる海馬が活性化する。 この時、日中の出来事や感情が再処理され、 「どんな意味があったか」「どう受け止めるか」が潜在意識レベルで再構築される。
つまり、寝る前にどんな言葉やイメージを脳に渡すかによって、 睡眠中の“脳内編集”が変わり、翌日のメンタルに影響する。
これは、心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した「ピーク・エンドの法則」にも通じる。 人は一日の終わりの印象によって、その日全体の記憶を再構成する傾向がある。 だからこそ、寝る前の5分が重要なのだ。
明日を気持ちよく過ごすために
──“眠る前の準備”としての習慣
朝のメンタルは、夜の自分がつくっている。 「明日を気持ちよく過ごしたい」と願うなら、 その準備は、眠る前に始まっている。
科学的にも、睡眠前のポジティブな自己対話は、 ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑え、 副交感神経を優位にし、深い睡眠を促すことがわかっている。
深い睡眠は、脳のグリオ細胞による“脳内の掃除”を促進し、 翌日の集中力・判断力・情緒安定に直結する。
つまり、寝る前の言葉は、 脳と心の“明日のコンディション”を整えるスイッチなのだ。
習慣は、才能を凌駕する
競技の世界では、「才能」という言葉がしばしば使われる。 だが、才能はスタート地点にすぎない。 本当に差がつくのは、日々の習慣だ。
寝る前5分に、自分の目標を静かに思い出す。 今日の良かった点を振り返る。 明日の自分に期待する。
この小さな習慣が、やがて「自分を信じる力」になる。 それは、試合の本番で迷いなく動ける“心の筋肉”を育てる。
競技者の「孤独」と「揺らぎ」に寄り添う時間
競技者は孤独だ。 結果が出ない時、誰にも言えない不安や焦りを抱える。 SNSでは他人の成功が流れ、比較の渦に飲まれそうになる。
そんな時こそ、寝る前5分が効く。 誰かに見せるためではなく、自分のために言葉を紡ぐ時間。 「今日もよくやった」「自分のペースで進めばいい」── その言葉が、揺らぎを静かに包み込む。
実践例:寝る前の“3つの問い”
最後に、競技者が今日から始められる「寝る前5分の習慣」を紹介したい。
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今日、自分が一番頑張ったことは?
→ 小さな達成を見つけることで、自己肯定感が育つ。
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明日、どんな自分でいたい?
→ 未来の自分に期待することで、行動の方向性が定まる。
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今、自分にかけてあげたい言葉は?
→ 自分との対話が、心の安定をもたらす。
この3つの問いを、紙に書いてもいいし、心の中で唱えてもいい。 大切なのは、「自分を信じる習慣」を、眠りの前にそっと育てることだ。これはスポーツメンタルコーチである私自身も習慣にしている事だ。
全然朝の目覚め方が変わるので是非実践してほしい。
最後のメッセージ
競技者にとって、勝利とは結果だけではない。 それは、自分との信頼を少しずつ積み重ねていく、静かな営みでもある。
寝る前の5分── 誰にも見られないその時間に、 自分を信じる言葉をそっと置いてみる。
「今日もよくやった」 「明日は、もう少しだけ前に進めるかもしれない」 そんな言葉が、眠っている間に心の奥へと染み込み、 まだ見ぬ自分を、静かに育ててくれる。
競技とは、証明ではなく、探求である。 その探求の旅路に、 自分を導く声がそっと寄り添っているなら── きっと、どんな結果の日も、意味のある一日になる。
そしてその積み重ねが、 誰にも奪われない“自分だけの強さ”になる。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者