感覚を育てることで不安は消える──競技者のための脳と身体の整え方

不安を感じる競技者へ──その原因は「感覚のズレ」かもしれません
「もっとこうすべきだ」「こうすればうまくいく」 頭では理解しているのに、なぜか結果が出ない。 そんな経験は、競技者なら誰しもあるのではないでしょうか。
その原因の多くは、「言葉でわかったつもり」になっていること。 つまり、体感として腑に落ちていないのです。
言葉はきっかけにはなりますが、それだけでは不十分です。 本当に理解するためには、身体で感じること=体感が不可欠です。
なぜ体感が必要なのか?
人間の脳は、情報を処理する際に複数の感覚野を使っています。 それぞれの感覚野は、異なる「入り口」から情報を受け取り、 それを統合して「行動」へとつなげています。
競技者が「本当にわかった」と感じる瞬間は、 この感覚の統合がうまくいったときです。 言葉・映像・感覚が一致し、動きが自然になる。 それが、体感による理解=本質的な成長です。
視覚・聴覚・体感覚──それぞれの役割を噛み砕いて解説
視覚優位──「見て理解する」タイプ
視覚優位の競技者は、目から入る情報に強く反応します。 鏡でフォームを確認したり、動画で自分の動きを分析することで、 「こう動いているんだ」「ここがズレている」と気づきやすくなります。
また、他人の動きを見て学ぶ力も高く、 理想のプレー映像を繰り返し見ることで、イメージトレーニングの効果が高まります。
視覚優位の人は、「見て納得する」ことで安心感を得る傾向があります。
聴覚優位──「聞いて理解する」タイプ
聴覚優位の競技者は、耳からの情報に敏感です。 コーチの言葉や指示、リズムやテンポの変化に素早く反応します。
「もっとリズムよく」「テンポを落ち着かせて」といった言葉が、 そのまま動きに反映されることもあります。
また、音声解説やリズムトレーニングなど、耳からの情報で動きを整えることが得意です。 聴覚優位の人は、「言葉で整理する」ことで理解が深まる傾向があります。
体感覚優位──「感じて理解する」タイプ
体感覚優位の競技者は、身体の感覚に強く反応します。 筋肉の張り、重心の移動、地面との接地感など、 微細な身体の変化を通じて「今どう動いているか」を把握します。
このタイプは、言葉や映像よりも、実際に動いてみることで理解が深まる傾向があります。 「やってみて、感じて、修正する」ことが最も効果的な学習方法です。
自分の感覚優位を知ることの重要性
競技者にとって、自分がどの感覚に強いかを知ることは、 トレーニングの質を高める上で非常に重要です。
なぜなら、自分に合った「理解の入り口」を使うことで、吸収力が格段に上がるからです。
- 視覚優位なら、動画解析や鏡を活用する
- 聴覚優位なら、言葉の使い方や音のリズムを意識する
- 体感覚優位なら、反復と身体の感覚に集中する
そして、どれか一つだけに頼るのではなく、全ての感覚を育てることが理想です。 なぜなら、試合中は予測不能な状況が多く、 視覚・聴覚・体感覚のどれかが使えない場面もあるからです。
複数の感覚を使えることで、不安に強く、柔軟に対応できる競技者になれます。
感覚のズレが起こす不安
競技者が不安を感じるとき、その多くは感覚のズレから生まれます。
頭では「できるはず」と思っているのに、身体がうまく動かない
言葉では「理解した」と感じているのに、実際の動きが伴わない
映像では理想のフォームが見えているのに、自分の感覚が一致しない
このズレは、自己信頼の揺らぎにつながります。 「自分は本当にわかっているのか?」 「なぜできないのか?」 そんな問いが、焦りや不安を生み出します。
しかし、このズレは悪いことではありません。 むしろ、ズレに気づけることこそが成長の入り口です。
全ての感覚を育てるにはどうしたら良いのか?
感覚は、意識的に使うことで育ちます。 以下のような方法で、視覚・聴覚・体感覚をバランスよく鍛えることができます。
視覚を育てるには
- 鏡を使ってフォームを確認する
- 自分のプレー動画を見て分析する
- 他人の理想的な動きを繰り返し視覚化する
聴覚を育てるには
- コーチの言葉を録音して繰り返し聞く
- リズムトレーニングやテンポを意識した練習を取り入れる
- 自分の動きを言葉で説明する(セルフトーク)
体感覚を育てるには
- 反復練習で身体に染み込ませる
- 呼吸や重心の変化に意識を向ける
- 目を閉じて動く練習で感覚を研ぎ澄ます
これらを組み合わせることで、感覚の幅が広がり、理解の深さが増します。 そして、どんな状況でも「自分の感覚で判断できる」競技者になっていきます。
感覚を育てることは、メンタルを整えることでもある
競技者の不安や焦りは、感覚のズレから生まれます。 逆に言えば、感覚が整えば、心も整うのです。
- 見て納得できる
- 聞いて理解できる
- 感じて安心できる
この「納得・理解・安心」の感覚が揃うことで、 競技者は自分を信じて動けるようになります。
つまり、感覚を育てることは、メンタルの安定と自己信頼の土台を築くことでもあるのです。
まとめ──感覚を通して、自分を整える
言葉だけでは、競技者の成長には限界があります。 頭で理解するだけでは、身体は動きません。 視覚・聴覚・体感覚──それぞれの感覚を通して、 「本当にわかる」感覚を育てることが、競技者の進化につながります。
そして、自分の感覚優位を知り、 それを活かしながら、他の感覚も育てていく。 そのプロセスこそが、脳と身体の感覚を通じて、自分を深く理解し、整えることです。
不安は、感覚のズレから生まれます。 でも、そのズレに気づき、整える力を持てば、 競技者はもっと自由に、もっと自分らしく動けるようになります。
さらに、全ての感覚を育てることは、メンタルを整えることでもあります。 感覚が整えば、思考も整い、行動に迷いがなくなります。 「自分は今、何を感じているのか」 「どの感覚が働いているのか」 それを理解できる人は、自分の内側に安心を持てる人です。
試合中、視覚が遮られることもある。 騒音で聴覚が乱されることもある。 緊張で体感覚が鈍ることもある。
そんなとき、複数の感覚を使える競技者は、揺るがない。 どれかが使えなくても、他の感覚で補える。 それが、本質的な強さです。
だからこそ、日々のトレーニングで 「見て」「聞いて」「感じて」 この三つを意識的に使い分け、育てていくことが、 競技者としての“深さ”と“安定感”につながっていくのです。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者