予測を疑う力──自動予測を疑うだけで変わるメンタルの質

人の心は、未来へと走りやすい。
気づけば脳は、まだ起きていない未来を勝手に描き始める。
競技者においての場面で例えると、試合前、練習中、勝負どころなどあらゆるところで無意識に予測している
- うまくいくか
- ミスするか
- 相手がどう動くか
- 自分がどう感じるか
これは性格の問題ではない。 人間の脳は、予測するようにできている。
そしてこの予測は、 良い経験・悪い経験に関係なく、過去のパターンからつくられることが多い。
脳は「良い・悪い」で判断していない。 ただ、 これまで何度も見てきた流れを未来に投影しているだけ。
脳は過去のパターンで未来をつくる
──良い記憶も悪い記憶も材料になる
脳が予測をつくるとき、 その材料になるのは「過去の経験」や「過去の記憶」から生まれる事が多い。
ただし、前述で述べたように、 脳は経験を良い・悪いで分類していない。
分類しているのは、「繰り返されたパターンかどうか」 もしくは「強烈に印象つけられた記憶」
良い経験がつくる予測
悪い経験がつくる予測
どちらも、 脳が過去のパターンを未来にコピーしているだけ。
つまり、 予測とは「未来の事実」ではなく、 過去の再生にすぎない。
視覚・聴覚からも予測は走る
──脳は一瞬で未来をつくる
脳は、目や耳から入ってくる微細な情報をもとに、 一瞬で未来を先読みする。
たとえば──
相手の表情
眉の動き、目の揺れ、口元の緊張から 「イライラしている」「困惑している」と判断する。
足音
踏み込みの強さやリズムから 「この足音はあの選手だ」「スピードが上がってきた」と予測する。
ボールの軌道
角度や回転の質から 「ここに落ちるだろう」「この回転ならこう曲がる」と未来を描く。
空気の張りつめ方
場の緊張感から 「次のプレーが勝負になる」と察知する。
監督の声のトーン
声の張りやスピードから 「怒っている」「焦っている」「今日は落ち着いている」と読み取る。
こうした微細な感覚情報は、 脳の中で過去のパターンと結びつき、 瞬時に「こうなるだろう」という未来をつくり出す。
これは人間の生存本能であり、 競技者にとっては大きな武器でもある。
しかし、脳が描く未来は、必ずしも現実と一致しない。
脳は、過去の経験や感覚のパターンをもとに もっともらしい未来を組み立てるけど、 それはあくまで 脳が便宜的につくったシナリオ にすぎない。
前述のとおり、相手の表情を見て「こう感じているはずだ」と決めつけたり、 足音や声のトーンから「次はこう動くだろう」と早合点したり、 脳は、瞬時に未来を描く一方で、 その絵が事実かどうかを確かめる前に心と身体を動かしてしまう。
だからこそ競技者には、 脳が描いた未来をそのまま受け取るのではなく、 一度、間を置いて扱う姿勢 が求められる。
その間が、 未来に飲まれず、過去に縛られず、 今に戻るための入口になる。
だからこそ、予測を疑うことが大事
予測は自然に生まれる。 止めることはできない。
だから必要なのは、 予測を疑うこと。
疑うとは、否定することではない。 「本当にそうだろうか?」と一度立ち止まること。
立ち止まることで、心が自動的に走らせていた未来との距離が生まれ、いま目の前の現実が見えるようになる。
予測を疑うための3つのステップ
① 予測と現実を分ける
予測は未来。 現実は今。
この2つを混ぜると、心は乱れる。
だから、まずはこう問いかける。
「今、何が起きている?」
「今、何ができる?」
この問いが、 未来へ走り出した心を静かに“今”へ戻す。
② 予測を仮説として扱う
予測を事実として扱うと、 心はその未来に縛られる。
でも、予測を仮説として扱えば、 心は自由になる。
- こうなるかもしれない
- こう動くかもしれない
- こう感じるかもしれない
このかもしれないが、 予測に柔らかさを与える。
柔らかさは、 競技者の動きをしなやかにする。
③ 過去のパターンを未来の事実にしない
脳は過去のパターンを未来に投影する。 でも、それはただの癖でしかない。
過去に成功したからといって、今日も成功するとは限らない
過去に失敗したからといって、今日も失敗するとは限らない
過去は未来を決めない。 決めるのは、 今の自分の状態と選択。
予測を疑うとは、 過去のパターンを未来の事実にしないということ。
予測を疑える選手は、状況に強い
予測を疑える選手は、 状況の変化に強い。
- 流れが変わっても崩れない
- 相手の予想外の動きに対応できる
- 自分の感覚を取り戻せる
- 過去の成功にも失敗にも縛られない
予測を疑うとは、 未来に飲まれず、 過去に縛られず、 今を生きる方法である。
この技術を持つ選手は、 どんな場面でも自分の力を発揮できる。
最後に
──予測は敵ではない。疑うことで味方になる。
とはいえ予測を信じるな排除しろと言っているわけではない。 むしろ、脳が生きるために備えてきた自然な働きであるということ。
ただ、その働きに自分が振り回されるか、 それとも距離を置いて向き合えるかで、 競技者としての心の質は大きく変わる。
脳が描いた未来にすぐ反応するのではなく、 一呼吸おいて、その未来と自分のあいだに余白をつくる。
その余白が、状況を見極める視野を広げ、 身体が本来のリズムを取り戻すためのスペースになる。
予測に引っ張られず、 過去に縛られず、 いまの自分の感覚に立ち返ること。
その静かな姿勢が、 どんな場面でも揺れない選手をつくる。
最後までお読み頂きありがとうございました。
コラム著者