メンタルを整えるうえで「知っておいて損はない話」
例えば
「自分は自分。周りに流されないタイプだと思っている」
「誰が何を言おうと、最後は自分で決めているつもりだ」
そう感じていたとする。 前提として、その感覚自体はとても大切ですが、
ただ一方で、 人は意図せずとも、無意識のレベルで必ず「影響」を受けている という事実があります。
ここで言う「影響」とは、 誰かに説得されたり、押し切られたりするような、 わかりやすい変化のことではありません。
もっと静かで、もっと見えにくくて、 気づいたときには「それが自分の当たり前になっている」ような、そんな種類の影響です。
このコラムで伝えたいのは、 「こうすれば影響されなくなりますよ」というテクニックではありません。
そうではなくて、 そもそも人は、意図していなくても無意識に影響を受けている生き物なのだ という構造そのものです。
この構造を知っているかどうかで、 メンタルの整え方も、環境の選び方も、 自分の心との付き合い方も、大きく変わってきます。
人は「影響されない」のではなく、「影響されていることに気づきにくい」
まず、前提として押さえておきたいのは、 人は影響されないのではなく、「影響されていることに気づきにくい」ということです。
たとえば、こんな場面を想像してみてください。
ネガティブなニュースばかり流れているテレビを、なんとなくつけっぱなしにしている
愚痴や不満が多い人たちと、一緒にいる時間が長い
常に誰かが焦っているような、落ち着かない空気の中で過ごしている
そのとき、 「自分もネガティブになろう」とか 「自分も愚痴を言おう」とか 「自分も焦ろう」と、 わざわざ意図する人はいないと思います。
それでも、気づかないうちにこうなっていきます。
物事を悪い方向から考えやすくなる
まだ起きていない不安を先回りして想像してしまう
ちょっとしたことでイライラしやすくなる
常に落ち着かない感覚が続く
ここで大事なのは、 「自分でそうしようと決めたわけではないのに、そうなってしまう」 という点です。
これが、 意図せずとも無意識に「影響」を受けている状態です。
無意識は「選べない」――聞いた時点で、もう入っている
意識は選べます。 「この人の話は聞こう」「この情報は見ないでおこう」 といった選択は、意識の領域です。
だけど、 無意識は選べません。
一度耳に入った言葉、 一度目にした表情、 一度浴びた空気は、 「受け取らない」という選択ができないのです。
たとえば、隣で誰かがこう言っていたとします。
「気にしないようにしよう」と思っても、 その言葉は耳に入り、脳は刺激を受けています。
こうした部分が、 あなたの意図とは関係なく反応してしまう。
これは、強い・弱いの問題ではなく、人間の脳がそういう仕組みになっている、というだけの話。
繰り返し触れたものが「自分の基準」になっていく
脳には、 「何度も触れたものを正しいと感じやすくなる」 という性質があります。
これを少し日常に落としてみると、こうなります。
ネガティブな言葉を日常的に浴びていると、それが当たり前になる
挑戦しない空気の中にいると、「挑戦しない」が普通になる
愚痴や悪口が多い環境にいると、自分も自然と同じような言葉を使うようになる
ここで重要なのは、 「自分でそうしようと決めたわけではない」ということです。
ただ、 繰り返し触れているうちに、それが自分の基準になってしまう。
これが、 人が意図しない方向に変わってしまう、 強力なメカニズムです。
空気はコピーされる――ミラーニューロンと「群れ」の影響
人間には、 相手の表情や姿勢、動きを無意識に真似してしまう ミラーニューロンという仕組みがあります。
これは「真似しよう」と思っているわけではなく、 脳が勝手に相手の状態を映し取っているんです。
さらに、人間は「群れの生き物」です。 生き残るために、 周りの基準に合わせようとする本能を持っています。
- 周りが挑戦しない → 自分も挑戦しない方が安全に感じる
- 周りが弱気 → 自分だけ強気でいることが不安になる
- 周りが愚痴を言う → 自分も愚痴を言った方が仲間でいられる気がする
こうして、 意図していないのに、群れの空気に自分が馴染んでいく。
これもまた、 無意識の影響の一つです。
カマスの話が教えてくれる「見えない枠」の怖さ
ここで、一つ有名な話を紹介します。 「カマスの実験」と呼ばれるものです。
水槽の中に、カマスという魚と小魚を入れます。 ただし、その間には透明なガラス板が入っている。
カマスは小魚を食べようとして、何度も突っ込む。 しかし、そのたびにガラス板にぶつかり、痛い思いをする。
それを何度も繰り返すうちに、 カマスはこう学習します。
やがて、カマスは小魚を追うことをやめます。
ここで、ガラス板を取り除きます。 もう、目の前には何の障害もありません。 小魚は自由に泳いでいます。
それでも、カマスは動きません。 小魚を追おうとしないのです。
なぜか。
「どうせ無理だ」という学習が、無意識に刻まれてしまったからです。
これは、人にもそのまま当てはまります。
そうした経験が積み重なると、 環境が変わっても、 チャンスが目の前にあっても、 自分から動けなくなってしまう。
外側のガラス板は、もうない。 それでも、内側にはまだ見えない板が残っている。
これもまた、 無意識の影響の一つの形です。
意図しない方向に変わってしまう、という怖さ
ここまで見てきたように、 人は無意識のレベルで、常に何かの影響を受けています。
そして厄介なのは、 その変化が「自分の意図」とは関係なく起きてしまう という点。
- 本当は挑戦したいのに、挑戦しない空気に染まっていく
- 本当は落ち着いていたいのに、焦りの空気に巻き込まれていく
- 本当は前向きでいたいのに、ネガティブな言葉に引っ張られていく
- 本当は自分軸で生きたいのに、周りの基準に合わせてしまう
「そうしよう」と決めたわけではない。 「そうなりたい」と望んだわけでもない。
それでも、 気づかないうちに、意図しない方向へと変わってしまう。
これが、 無意識の影響の怖さであり、 同時に、環境の力の大きさでもあります。
だからこそ、「影響を受けている」という事実を知ってほしい
まずは、「人は意図せずとも無意識に影響を受けている」という事実を知ってほしい。
- 自分の考え方や感情の一部は、環境からの影響かもしれない
- 今の自分の基準は、過去に触れてきたものの積み重ねかもしれない
- 「自分はこういう人間だ」と思っているその感覚も、どこかで刷り込まれたものかもしれない
そうやって一度立ち止まり、 「本当にそれは、自分の内側から出てきたものなのか?」 と問い直してみる。
その気づきこそが、 メンタルを整えるうえで、 そして自分軸を守るうえで、 何よりも大きな一歩になります。
触れるものを選ぶことは、心への「静かな投資」になる
人は、影響を避けることはできません。 無意識の影響から完全に逃れることもできません。
だからこそ、 何に触れるかを選ぶことが、 心にとっての「静かな投資」になります。
- どんな人のそばにいるのか
- どんな言葉を日常的に浴びているのか
- どんな本を読み、どんな動画を見ているのか
- どんな空気の中で生活しているのか
それらはすべて、 あなたの無意識に静かに染み込み、 心の質をつくっていきます。
今回のコラムは、人は意図せずとも無意識に影響を受けている という構造を知ってもらうためのものです。
その理解が、 あなたがこれから触れるものを選ぶときの、 小さな基準になれば嬉しく思います。
そして、 あなたが「本来の自分」に近づいていくための、 静かなきっかけになればと願っています。